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第1話  マナの世界    progress by MIKI



 古びたビルの立ち並ぶ廃墟とも言うべき町並み。
 現実世界にもありそうで無いこの空間に、そこらじゅうから打撃音や金属音がこだまする。
 空には厚い雲が覆いかぶさり、薄暗く廃墟らしい雰囲気を演出してくれている。
 そんななか、俺は1人の男と対峙している。

「今日こそ決着つけてやるぞ、リー」
「望むところだ。格の違いを見せてやる」

 リーってのは俺のこと。
 今は本名を名乗っているが、昔は芸名を持っていたって感じかな。
 俺がこの世界に出入りするようになって、昨日でちょうど2年になる。
 俺も年の割にはこの世界じゃ古株、一部の連中の間じゃ有名人だ。

キーンッ!

 甲高い金属音を上げて俺たちはにらみ合う。互いの剣を交えて不動の力比べだ。
 はじかれれば致命傷だが、はじけばそれで決着がつく。
 その間にも周囲では壁が壊れる音や銃声、そして戦う人々の声が聞こえてくる。

「あと30秒か……。こりゃ力比べしてる場合じゃないな」
「だったらお前が下がれよ、迅。引いたところをぶった切ってやるから」
「バカ言え、下がるのはてめェだ」

 その後数秒の沈黙を経て、俺と迅(じん)は同時に身を引いた。
 バックステップで数歩後退し、距離をとったところで勢い良く走りこむ。
 周囲に響き渡る大きな金属音を上げ、俺たちは何度も剣を振った。
 そのほとんどは相手の剣によって止められ、流される。
 その合間合間に数回相手の胴を斬りつけ、また、かすること無く空を切る。

 ラスト10秒のカウントダウンが始まるとより一層気合がこもり、俺たちは声を漏らして剣を振るった。
 そして試合終了の鐘が鳴り、それとほぼ同時に俺たちは町へ召還される。



 戻ってきた町はさっきまでの廃墟とはまったくの別物。
 空は青くすみ渡り、心地よい風が吹き抜ける。
 俺たちが召還されたのは、そんな町の中心となる倉庫前の広場だ。

 この世界は大きく分けて2つのエリアに分けられる。
 1つはこの町みたいにすべての行動の拠点となる町エリア。
 そしてもう1つはRPGではおなじみの戦闘を行うダンジョンエリアだ。

 この町はこの世界で最も大きな町であり、最も人々の集まるところ。
 その中でも人々に最も需要のある施設が今目の前にある倉庫って施設だ。
 倉庫ってのはその名の通り、俺たちの持ち物を保管してくれる施設。
 武器や防具といった装備品がやたらと必要になるこの世界では、異常なまでに必要となる最重要施設ってわけ。
 だから最大の町の中心部にそれが設けられてるわけだ。

『ただいまの試合、148対93でユニオン・黒陽炎の勝利となります』
 広場から周囲を見渡していると運営側から先の試合の結果が報告された。

 さっきの試合はユニオンバトル、通称ユニバトと呼ばれるイベント試合の1つだ。
 ユニオンってのは簡単にいえばユーザーが組織する公に認められたグループのことだ。
 この世界ではお金と人数が集まればユニオンを組織できる。
 ユニオンに所属しているメンバーにはイベントに参加できる等いくつかのメリットがあるんだ。
 そして、そのユニオン同士のイベントバトルがユニバトってわけ。
 ちなみにユニオンはユニって略されるな。ユニオンバトルもユニバトって呼ぶからなぁ。

 さっきの試合は俺たちのユニオン・ハチゼロと黒陽炎とのユニバトだった。
 黒陽炎とは2年前からの付き合いで、互いに良く知っている腐れ縁。
 2年前から何度となく試合をして競い合っているんだが……。

「また勝っちまったな」
「……柴几」

 結果を聞いて肩を落としているところに相手ユニのマスター・柴几(しき)が話しかけてきた。
 マスターってのはユニオンのトップ、つまりリーダーのポジションのことだ。
 ちなみにハチゼロのマスターはこの俺。といってもやってる意味が分からないんだけどな。

「悪いな。またうちの株を上げるための踏み台にさせちまって」
 嫌味か。単体での力なら俺らだって負けちゃいないんだ。
 今度こそ絶対に負かしてやる。
「いつかお前らを、俺らの踏み台にしてやるぞ」
「お前らじゃできねェよ」
「なんだと!?」
「あいあい、ストップストップ」

 そういいながら俺に飛びついてくるお姉さん。
 こいつは夜月、俺たちはみんな「月」って呼んでる。その方が楽でいいんだ。
 こいつはうちのサブマスで、主に連絡やまとめ役を任せてある。
 サブマスってのはサブマスターの略。つまりマスターの補佐役ってところだ。
 ちなみに戦闘での実力は俺以上、こいつが俺の下にいるから俺がマスターの意味が分からない。
 リーダーがサブマスより弱いってやたらかっこ悪いんだぜ?

「ありーっス」
「うっせ!」
 顔を合わせるなりお礼を言う月に対し、即座に、かつキレ気味に柴几が言った。
「いやぁ、今日も絶好調やったね♪」
 親指を立てた手を突き出し、ウィンクをしながら楽しそうに語る月。
「てめェ……。次こそは仕留めてやるからな」
「できるもんならね」
 うちのユニはこれまで黒陽炎に勝ったことが無い。
 だが、それと同時に柴几は月に勝ったことが無い。
 両ユニ間で最も強いのは月、その次が柴几だ。

 俺が何番目なのかって話しには触れないでくれ……。

「なぁ、お前らメンバー集めしろよ。メンバーが集まれば絶対強くなるだろ」
「柴几、それは違うぞ」
「違うって……なにが違うんだ?」
 まぁ聞いてくれ、俺の苦労話を。
「メンバー集めをしなかったわけじゃないし、申請者を断ってるわけでもないんだ」
「一時はメッチャ声掛けまくってたもんね、あんた」
 おう、そこで他人事のように流すのがお前らしいところだ、月。
「どんなに声をかけても断られるんだよ。いつも同じ答えでな」
「同じ答え?ってことは理由は1つなのか?」
「あぁ、連中の答えはいつもこうだ。「評判悪いじゃん」この一言に俺はいつも玉砕されてきたわけだ」
「なんでやろね。こんなにガンバってんのに」
 あぁ、そこで自分のせいだと気がつかないお前は素敵だよ、月。

「リー、俺らにできることがあったら言ってくれ……」
「分かってくれるか、我が好敵手よ……」
 月の普段の行動を知っている柴几は何も言わずとも理解してくれた。
 助かるよ。できることなら俺の口からそれを伝えたくはない。
 俺は柴几の手をとって心の中で涙を流した。

 柴几の言うように、俺たちの敗因は明らかにメンバー不足にある。
 個人個人の実力でならうちと黒陽炎に大差は無い。いや、上位を占める割合はうちの方が高いはずだ。
 月と柴几では月の方が上、俺と迅では俺の方が……多分上だ。
 ただ、人数には明らかな差がある。
 黒陽炎は総員30名を越える中型ユニオン。対してうちは総員10名以下の超小型ユニオンだ。
 個人の能力が高くても人数で圧倒されちゃどうにもならん。

 柴几の言うとおり、メンバー集めはうちの課題なんだが……月がいる限りどうにもならん気がする……。




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