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第2話  現実世界へ    progress by MIKI



 試合を終えた俺たちは広場の片隅にある小さなベンチエリアに集まった。
 ハチゼロのメンバーは俺を入れて7人、うち2人が欠席でここには5人が集まっている。
 対する黒陽炎はマスターの柴几、サブマスの迅に加えて30人とちょっと。
 今は27人が集合している。

「なに?結局今日も決着つかんかったん?」
 俺と迅の戦闘結果を聞いて月が訊いてきた。
「いや、アレは俺の勝ちだな」
「なに言ってやがる。倒した回数は互角だけど、内容では俺の勝ちだろ」
 根拠も無く勝ちを語る迅を俺は軽くあしらって言った。
 何せ俺は今日の試合で迅を2回、一撃で仕留めている。
 一撃必殺ってのはポイントに甘味されないけど感覚的に俺の方が上だろう。
「回数が同じなら引き分けだろ?」
「「うっせェ!」」
 冷めた口調で冷静に判断を下す柴几を、俺と迅は声をそろえて静止させた。
 柴几に言われなくたって分かってる。確かにまともな判断をすれば俺と迅の試合は引き分けだ。
 けど、俺たちは今まで何十回という試合を引き分けてきた。
 この期に及んで「引き分け」なんて結果はいらんのだ。

「ってか迅、なんでお前までキレてんだよ?」
「……ノリだ」
「ノリか」
 今の柴几のツッコミは明らかに俺に対してだった。迅までツッコミ返す必要はないだろう。
 そう思って俺は迅に問いかけたんだが、まぁノリなら別に構わねェな。


「ところで今日、くろはどうしたんだ?」
「あぁ、くろは都合が悪くてこられへんのやて」
 うちのユニの主力メンバー・くろ卵、通称くろがいないことに気がついた迅。
 その質問に素早く答えたのは月だった。
「あいつがいればもう少しはまともな試合になったろうに」
 勝ったことをいいことに、まるで自分が月を抑えたかのような発言をする柴几。
「お前が言うな。月に完全に抑えられてたくせに」
 俺は見てたんだ。確かに俺はマスターでありながら、相手のサブマス1人とタイマンをはっていた。
 けど、柴几はマスターでありながら月に完全に抑えられていた。
 それだけなら俺と変わらないが、月はその他に5人も黒陽炎のメンバーを同時に相手をしていたんだ。
 マスターとしてのできの悪さじゃ、俺より柴几の方ができそこないだろ。

「リーもくろがいない分、ガンバらにゃならんかったんちゃうの?」
「スンマセン」
 分かってます。
 7対27で勝負をするにはうちのメンバーは1人で3人以上を相手にしなけりゃならない。
 そんなことは分かってるんだけども……迅にこれ以上ライバル面されるわけにはいかんのです。


 気がつけば時刻は既に9時を回っていた。といってもすぐに解散てのもつまらない。
 そこで俺たちはしばらく雑談をしてすごし、話しが落ち着いたところで解散することにした。
 各自その場でワープの如く姿を消し、現実世界へと戻っていく。




 現実へと戻ってきた俺はロッカーから自分の荷物を取り出し、鍵を係員に返して外へ出た。
 現実の世界とマナの世界、平行する2つの世界をつなぐ施設。
 それが今、俺の後ろに建っているバカでかい施設の正体だ。

 マナって世界は実際には存在しない。
 マナの世界ってのは簡単に言ってしまえばゲームの世界と変わらない。オンラインゲームの進化版だ。
 空想世界に意識を飛ばし、そこに広がる世界で活動しているような錯覚に陥るってのがマナの正体。

 現実世界である設定をすれば、マナの世界で使用した筋肉に電気信号が送られ、
 実際に運動したのと同等の効果を得られる。
 これによってダイエットや運動の代わりにも用いられるし、
 運動する場の少ない今の世の中では公園なんかの代わりにも使われる。
 要するに今の世界のニーズにあった理想的なゲームってわけだ。

 で、そのマナの世界に出入りするにはそれなりの装置が必要で、それが完備されているのがこの施設。
 数年前から各地の町に姿を現し、今じゃコンビニと同じような間隔で町中に建っている。
 この施設も俺の家から徒歩数分のところにある。


 施設を出て家に向かって歩いていると、目の前に見覚えのある後姿を見つけた。
「お〜い、アミ〜」
 俺は目の前を歩く髪の長い女に声をかけた。
 俺の呼びかけに気がついた彼女は足を止め、髪を振りながら振り返った。
「こんな時間にこんなところで何やってんのよ?」
 人の顔を見るなりこいつは……。
 まるで俺がここにいちゃ悪いように言ってくれる。
「遊んでたんだよ。お前は?」
「コンビニに買い物に行ってたの。今はその帰りです」
「さよですか」

 こいつの名前は伊藤 亜美(いとう あみ)。
 17才の高校2年生で俺の同級生だ。
 小学校に入るまでは話しをしたこともなかったんだが、俺の家はこいつの家の2件先にある。
 いわゆるご近所さんってやつだな。
 最近では家族ぐるみの付き合いが多いもんで、やたらと顔をあわせるようになった。

「ねェ、これ持ってよ」
 並んでそれぞれの家に向かって歩き出した直後、重そうに運んでいる袋を1つ差し出しながら亜美は言う。
「何で俺が。お前の買ったもんだろ、自分で持てよ」
 つうかちょっと待て。コンビニ帰りのヤツが袋2つも持ってんじゃねェよ。
 それも特大サイズの袋が1つ。しかもあろうことか、それを俺に持たせようとしてやがる。
「いったい何買ったんだ?コンビニで2袋も買うか、普通」
「こっちはあんたのおばさんに頼まれたの。ポテトチップとコーラ、それから週刊誌とアイスかな」
「あ〜……。お疲れ様です」
 いったい何頼んでやがんだ、うちの親は。んなもん自分で買いに行きやがれ。
 こういう何気ないツケが全部俺に寄せられんだぞ。
 仕方ない。ここは1つ、早めにツケを返しておきますか。

 俺は荷物を差し出す亜美の手から袋を受け取り、ついでにもう片方の袋も手に取った。
「あ、持つのはそっちだけでいいわよ。こっちのは私ん家のだから」
「気にすんな。買出しさせちまったお詫びとお礼だから」
 両方持ってやれば今回の分のツケはチャラだろ。
「……じゃあお願いしようかな」
「おう」

 そういや自己紹介がまだだったな。
 俺の名前は神楽 未来(かぐら みき)。当然亜美と同じで17歳の高校2年生。
 得意科目は体育で、苦手科目は科学、英語をはじめ、その他多数。
 趣味は当然マナだな。

 2年前からマナを始めたのは、中3のときに受験勉強をしてるふりをして始めたからだ。
 塾に通ってるふりしてあの施設に通ってたんだ。
 マナの世界で知り合ったやつにテスト前だけ勉強を見てもらったんで、成績はそれなりに上がってた。
 だから親にばれずに済んでたんだ。ま、結局はばれちまったけどな。

 今じゃ部活もやらないでほとんど毎日マナで遊んでる。

 ちなみに、月や柴几たちが俺のことをリーって呼ぶのは、以前俺が「李悠(りゆう)」って名乗ってたからだ。
 数週間前にある事件が起こって名前を付け替えることになったんで、今は本名で「ミキ」って名乗ってるけどな。




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