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第3話  珍しいこと    progress by MIKI



「行ってきまーす」

 午前7時50分、俺はカバンをかごに入れてペダルをこぎだした。
 俺の通う学校は家から徒歩で20分のところにある。
 この時間に家を出れば、まず遅刻することはないだろう。

「行ってきまーす」

 俺が自転車で家の敷地から出たところで前の方から聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「おはようさん」
 家の前に差し掛かったとき、ちょうど自転車を押しながら出てきた亜美に俺は挨拶をかました。
「あら、珍しいわね。こんな時間にあんたが登校するなんて」
「ちょっと考えることがあってな。昨日はなかなか寝れなかったんだ」
「なに?勉強?」
「なわけ無いだろ。俺が家で勉強なんて」
 塾ってうそついてマナで遊んでるようなヤツだぞ。
「それもそうね。じゃあ悩みって何よ?」
「その前に自転車乗らないか?時間はあるけど遅刻コースに入っちまう」
「オッケー」
 俺は亜美を自転車に乗るように促し、亜美と並んで自転車をこぎだした。

「それで?何を考えてたわけ?」
「お前が興味の無い話だよ」
「……あ、わかった。あのなんとかっていうゲームのことでしょ」
「そ。昨日ちょっとイベントがあってさ。その結果について考えてたわけ」
 負けの敗因、メンバー不足は深刻な問題だ。
 20人もいればユニとしても十分な大きさ、うちの名前も響くようになるだろう。

 星の数ほどあるユニの中で、うちのランクは下の上から中の下程度。
 名のあるユニはどこも大規模なチームばかり。
 ユニマスの一人としてはユニの名前を響かせたいんだが、どうにも人が寄り付かないんだよな。
 原因ははっきりしてるんだが、それを取りのぞくわけにはいかないし……。

「……マナって言ったっけ。それってそんなに面白いの?」
「ん?あぁ、やばいぞ。飽きっぽい俺がはまってんだから分かるだろ」
「ふーん……」
 この後、俺は並走しながらマナの魅力を延々と亜美に伝えた。

 けど、なんでだろう。
 いつもの亜美はこういうことには全く興味を示さないヤツなのに、今日は自分から話題を振ってきた。
 こいつ、マナに興味があるのかなぁ。


 俺たちは学校の敷地内にある駐輪場に自転車を止め、正面にある入り口から校舎内に入った。
 そのまま階段を上がり2年の教室エリアに入る。
 2年は全部で7クラスあり、階段横からA、B、Cと並んでいる。
 俺と亜美はFクラス、奥から1つ手前の部屋が俺たちの教室になる。

 AからEクラスの教室の前を通って、俺たちは自分たちの教室に辿り着いた。

「おっはよー、アミ」
 俺たちが教室に入るなり、挨拶と同時に亜美に飛び付いてきた女の子。
「あれ?神楽くんもいる」
「おう。じゃな、お2人さん」
 俺は2人に挨拶をして教室の奥に進んでいった。

 亜美に飛び付いた彼女の名前は工藤 由紀(くどう ゆき)。
 やたらと小さい亜美の親友だ。
 今年初めて同じクラスになったもんだから詳しいことは知らん。
 声が高くて背が小さい、例えるなら子犬みたいなヤツかな。

 つか朝からついで扱いされたぞ。
 まぁ確かに、俺がこんな時間に登校することなんてないから仕方ないのかもしれないけど。

「おっす」
 俺は自分の席にカバンを置き、前の席で雑誌を読んでいる男子に話し掛けた。
「ミキ。今日は休みじゃなかったんだ」
「あぁ、ちょっと寝坊しただけだ」
「珍しいな、ミキが寝坊なんて」
「まぁな」
 そう、普段の俺はかなり余裕を持って登校している。
 だが、別に遅刻を恐れて早く来ているわけじゃない。
 人通りの少ない早朝の町中を自転車で駆け抜けるのが好きだからだ。

「そうそう、これ見てよ。ほら、この記事」
 そう言って俺の机に雑誌を広げるこいつは田口 隼人(たぐち はやと)。
 幼なじみってほど古い仲じゃないが、それみたいなもん。
 俺の一番の友達、俗にいう親友ってやつだ。

 しばらく雑誌の記事をネタな話をふくらましているとチャイムが鳴った。
 8時30分、1限目の授業が始まる。
 この後、2科目計4時間も授業が続くことになる。
 けど、毎日そんなに勉強ばかりしてたら頭がおかしくなる。
 俺は隼人から借りた雑誌と、机のなかにたまった雑誌を駆使してこの時間を乗り切ることにした。
 まずは隼人から借りた芸能誌だ。


キーン コーン カーン コーン

 4時間後、昼休み開始のチャイムが鳴った。
 俺は4冊の雑誌を持って午前中の授業を乗り切ったわけだ。

「よしハヤト、飯行くぞ」
 授業が終わった直後、先生がまだ教室内にいるうちに俺は隼人を飯に誘った。
「オッケー。今日はどこ行く?」
 カタカタと筆箱にペンをしまいながら隼人が言う。
 隼人のヤツはちゃんと授業受けてるんだな。
「そうだなぁ……。ちっさい方の屋上にしようぜ。どうせ中庭は混んでるだろ」
「屋上?あそこは立入禁止だぞ?」
「お前、あんな立て札に止められてどうするんだよ」
「けど、ご丁寧に鎖までつけてたと思ったけど」
「見えん」
「はは。俺、ミキの考え方好きだなぁ」

 屋上で食べることに決めた俺たちは、何のセキュリティにもなっていない
 立入禁止の立て札がついた鎖を潜り、屋上へと続く扉を開けた。
 扉の先には教室1つ分程度の小さな屋上が広がっている。

「おし、誰もいねェ」
 屋上を一通り見渡した俺は、その場に誰もいないことを確認して中央付近に寝転がった。
「みんなあっちの屋上にいるみたいだな」
 フェンスに手を掛け、こことはつながっていない屋上を見ながら隼人が言う。
「あっちのほうが広いし、一応立入禁止にはなってないからな」
「俺たちもあっち行けばよかったんじゃない?」
「昼休みを静かに過ごすにはこっちの方がいいよ」
 あっちじゃ人がいすぎて、静かにってわけにはいかないからな。
 俺は起き上がり、弁当を広げはじめた。
「それもそうだな」
 納得して俺と同じように弁当を広げはじめる隼人。

 俺たちは箸を手に取り弁当をつつきはじめた。
 雑談をしながら弁当を口に運んでいく俺たち。
 そして、俺たちが半分を食べおわった頃だ。

ガチャ

 突然校内へと続く階段の扉が開いた。
「「……ん?」」
 突然開きはじめた扉に注目する俺たち。
 その視線の先に現われたのは由紀と、由紀に背中を押されながら歩く亜美だった。
「あれ?神楽くんと田口くんだ」
「工藤さん……」
 俺たちに気が付いて名前を口にする由紀。
 それにつられたのか、隼人も由紀の名前を口にした。

「ほらぁ、やっぱりあたしと同じこと考える人いたじゃん」
「う〜ん……。……どうせミキでしょ、こんなところでお昼食べようって誘ったの」
 まぁな。確かに俺が隼人をここに連れてきたよ。
 由紀の言葉を考えると、こいつらも俺たちと同じらしいな。
 亜美は由紀に無理やり連れてこられたみたいだ。

「ねェ、アタシたちも一緒していい?」
「あぁ、座れ座れ」
 俺が由紀の問い掛けに答えると、亜美たちは俺たちと円を組むようにして腰を下ろした。




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