第4話 2人の候補者 progress by MIKI
その後20分ほどでその場の全員が食べおわり、昼休みを15分ほど残して雑談タイムへと移行した。
「なぁ、昨日の結果についてなんだけどさぁ」
「あぁ、派手に負けたよな」
「でだ。クロカゲの連中にも言われたんだけど、敗因は間違いなく人数不足だろ?」
「いや、ミキがノルマを達成できなかったから……」
「うるさい!」
俺は余計なことを言いかけた隼人を制止させた。
確かに俺は迅1人しか抑えられなかったよ。けど負けたわけじゃない。
それに人数ノルマができたのだって、こっちの人数不足が原因だ。
「とにかく、うちは明らかに人数不足だろ!?」
「確かに少ないよなぁ」
「そこで相談なんだけどさ」
「あ、無理」
「まだ何も言ってねェ」
断るにしてもまずは聞いてくれ。
「ハヤトの知り合いで、うちに入ってくれそうなヤツいないか?」
「っても大半はユニに入ってるしな。フリーのヤツには一応声は掛けてるんだけどさ」
「そうか……」
俺の方も隼人とまったく同じ状況だ。
既にどこかに所属しているヤツでさえ引き抜こうとしているくらいなんだけど、全員うちに入るのを嫌がってる。
連中が嫌がるすべての原因はうちのサブマスにある。
月の無茶についていける自信がなくて、うちに入るのを渋るヤツが明らかに多い。
けどメンバーを集めるためにあいつを追い出すわけにはいかないし……。
「どうしたもんか……」
知り合いの中から候補者を探すのが間違いなのかな。
だけど掲示板にはメンバー募集中のポスターを貼ってあるんだよな。
見知らぬ奴らを集める方法って他に無いかな。
さすがにすれ違うヤツ全員に声をかけるわけにはいかないし……
「ミキ……」
「ん?」
呼ばれて俺が顔を上げると、隼人は視線を正面に向けた。
その視線の先には、俺たちとはまったく異なる話題で盛り上がる亜美と由紀がいる。
(……アミたちを誘えってのか?)
確かにこいつらは知り合いだ。だけどマナをやっていない。
マナをやってないヤツを誘ってもしょうがないだろ。
「……なに?」
俺たちの視線に気が付いた亜美は不思議そうに訊いてくる。
「なんでもない。気にすんな」
でも隼人の考えは使えるな。
亜美たちみたいにマナをやってないヤツを誘っても仕方ないが、
現実世界の知り合いのなかにもマナをやっているヤツはいる。
そいつらを誘ってみるってのはいい案だ。
後で月たちに提案してみるか。
「ねェねェ、何の話?」
「なんでもない、なんでもない」
俺は話を広げようとしてくる由紀を軽くあしらった。
「気になるじゃん。教えてよ」
「工藤さんたちはマナって知ってる?」
話せ話せと迫ってくる由紀に圧されていくうちに、隼人が折れて話しだした。
「マナって確か、最近よく雑誌に乗ってるゲームだよね?」
「そうそう。俺たち今それにはまってるんだ」
数あるオンラインゲームのユーザー獲得争いにおいて、桁違いの功績を収めているマナ。
その秘密は他のゲームとは明らかに異なるマナのプレイ方法にある。
意識を取り込むことで現実世界と同様の感覚で行動することができる、
そのマナのスタイルが俺たちを虜にしている理由だ。
「そのマナってみんなやってるの?」
「まぁ、人口が多いのは確かだな」
「そうだね。一緒にやってるわけじゃないけど、クラスでもマナの話らしい話を聞いたことはあるよ」
マナの世界では基本的にニックネームを名乗るヤツが多い。
姿も自由にかえられるから、実質的には匿名で参加することになる。
そのためクラスメイトがマナをやっているのかどうかは意外に分からない。
「けど、マナの人口は現実世界の人口の半分以上だからな。大概のヤツはやってんだろ」
「へェー、マナってそんなに人気なんだ」
実際に別の世界にいってるような感覚だから、ゲームっていう抵抗が無いんだ。
それも人気になる要因の1つだろう。
「1つ質問。神楽くんと田口くんは一緒にやってるの?」
隼人からマナに関して大方の説明を受けた由紀。
現実世界の友達と必ずしも一緒とは限らない、それを聞いた彼女は俺たちはどうなのか気になったのだろう。
「あぁ。ずっと一緒ってわけじゃないけど、一緒と言えば一緒だな」
「ふーん……。アミ、ちょっと」
由紀はそう言うと亜美を連れて立ち上がり、俺たちに背を向ける。
そして耳打ちをするようにして、なにやら俺たちには秘密の会議をはじめた。
しまいには亜美のくびを抱えるようにして亜美を静かに怒鳴りつける由紀。
正直、後ろからじゃ何が起こっているのか分からない。
由紀のオーバーなリアクションで、なんとなくの雰囲気は伝わってくる。
けど、2人があの体勢になる理由も意味も分からないし、何の会議なのかまったく分からない。
1分ほど続いた会議を終えて、亜美と由紀が戻ってくる。
「何の話だったんだ?」
俺は2人に会議の内容を聞こうと問い掛けた。
「内緒内緒♪それよりお願いがあるんだけど」
「お願い?」
「あたしたちもマナやってみたくなっちゃったの。だから2人の仲間に入れてくれない?」
手を合わせて頼み込んでくる由紀。
「いや、まぁ、断る理由は無いけど」
マナを始めたいって言ってるヤツを止める理由は無いし、
俺たちの仲間になってくれるって言うなら願ってもないことだ。
「俺は全然構わないよ。けどうちのマスターはミキだから」
「俺も構わないぞ。月たちも問題ないだろうし」
変り者が多いけどその辺は平気だろう。だけど何でいきなり?
まぁ由紀は好奇心旺盛なタイプのヤツだから分かるとして、問題は亜美だ。
亜美のキャラからすれば、とてもマナに興味を持つようには思えない。
たぶんゲームって響きだけで引っ込むはずだ。
「……なによ?」
そんなことを考えているとたまたま亜美と目が合った。
「お前も興味あるのか?」
「興味くらいわね」
「さよか。ま、2人がやるって言うなら面倒は見てやるよ」
「やった!神楽くん、アリガト」
オーバーリアクションで俺の手を取り、飛び跳ねてはしゃぐ由紀。
少し引いて他人事のように俺と由紀を眺めてる亜美。
そしてさっきからチラチラと俺を見てくる隼人。
良く分からないぞお前ら。
亜美、眺めてないで彼女を止めてくれ。
隼人、なんで俺を見てるんですか?
「案内するのは今日でいいのか?」
「うん♪お願いね」
「はいはい」
これから俺たちは両世界共通の仲間になるわけだ。
まぁ2人とも悪いヤツじゃないからいいけどね。
けど面倒見るって何をしたらいいんだろう。
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