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第5話  マナの世界に向かって    progress by MIKI



 その後4時限分の授業を寝て過ごし、いつのまにか放課後になっていた。
 みんなが帰りの支度を始めた頃、俺は隼人に頭を叩かれて目を覚ます。
「授業終わったよ」
「……なに?もうそんな時間……?」
「あぁ、掃除当番が困るから早く出ようぜ」
 今だに冴えてこない頭を抱え、ほぼ空の鞄を持った俺は隼人に続いて教室を出た。

 8限まで授業を受けると学校を4時すぎに出ることになる。
 どうせ寝てるだけなんだから、本当は学校なんか来る必要はないと思うんだ。
 だけど親も先生も高校くらいは卒業しろってうるさい。
 要するに学歴が問題なんだろうけど、寝てるだけの学歴に何の意味があるんだろう。

「神楽くーん、田口くーん。こっちこっち」
 自転車を取りにいこうと駐輪場をめざして歩く俺と隼人。
 そんな俺たちを正面から呼び掛けてくる高い声。
 見るとそこには自転車のハンドルに手を掛ける亜美、そして鞄を持って立っている由紀の姿があった。
「おまえら、マジでやるのか?」
「うん、マジマジ。待ってるから早く自転車取ってきてよ」
 由紀は俺と隼人の背中を押し催促する。

 俺たちは自分の自転車をそれぞれ回収し、校門前で待つ亜美たちと合流した。
 マナの世界に行くにはある施設に行かなければならない。
 校門前で亜美たちと合流した俺は、一先ずそのことを2人に説明した。

「じゃあ、先に家には帰らなくていいんだな?」
「うん。親にはメールしておくから平気」
「あたしもあたしも」
 帰りが遅くなるだろうことも説明したが、2人ともメール連絡だけで事足りるらしい。

「田口くん、あたし自転車持ってないの。後ろ乗せてくれる?」
「あぁ。別に構わないよ」
「アリガト♪」
 由紀はそう言うと鞄を肩にかけ、隼人の自転車の荷台に腰掛けた。
 それに続いて俺たちもサドルに座り、ペダルに足をかける。
「それじゃ行くぞ」
「おー!」
 こんな風にいちいちアク ションを反してくれる由紀。
 普段なら隼人も適当にリアクションをしてくれるんだが、今日はどうも様子がおかしい。
 亜美がノーリアクションなのはいつものことだから気にしないが、隼人がノーリアクションなのは気になるな。

 俺は由紀の家を知らないから、どこの施設を使うのが適切なのか分からない。
 そのため学校に1番近い施設が無難だろうと判断し、俺はそこに向かってペダルをこいだ。
 そして3分もしないうちに施設に到着。
 俺たちは施設横に用意された駐輪場に自転車を止め、施設内に足を進めた。

「わぁー、ここの中ってこんななんだぁ」
 初めて見た施設内の光景に目を奪われ、キョロキョロと周囲を見渡す由紀。
「ユキ。こっちだ、ついてこい」
「はぁーい♪」

「すんません、この2人初心者なんで申し込み用紙もらいたいんですけど」
 由紀が合流したところで、俺は2人を連れて受け付けの係員に話し掛けた。
「かしこまりました。それではここに必要事項を記入して提出してください」
「ども」
 俺は係員の女性から申し込み用紙を受け取り、亜美たちをつれて近くのソファに座った。

「とりあえずこことここに記入してくれ」
 俺は渡された申し込み用紙の2ヶ所を指差した。
 1ヶ所は氏名や住所、生年月日といった個人情報欄。
 もう1ヶ所はどの世界に参加するのかをチェックするチェック欄だ。

「ここは?」
 亜美が問い掛けながら指差したのはチェック欄の方だ。
 ひとえにマナと言っても用意された世界は1つや2つじゃない。
 戦闘を楽しむための世界や現実を再現した世界など、
 いくつも存在するさまざまなマナの世界から、ここで希望する世界を記入しなければならない。
 これが問題なんだよな。
「……なに?」
 ぼーっと考えていると、亜美が不審に思ったらしく話し掛けてきた。
「俺もハヤトも、このアクションRPGの世界で遊んでるんだ。だから他の世界のIDを持ってないわけ」
「つまりその世界以外は案内できないってこと?」
「そういうこと」

 俺はただ現実を再現した世界やスポーツをやるための世界なんかには、正直まったく興味がもてなかった。
 そんな世界なら現実とかわらないからだ。
 そんな中で一際心惹かれたのがアクションRPGの世界だった。

 この世界では武器や防具を装備して、現実ではありえないような戦闘を楽しめる。
 まさにゲームの世界を自分の体で体験できる未知の世界。
 もっとも、自分の体といっても仮想空間での話だから痛みはないし、
 体力が空になったら病院に運ばれる程度で、当然死ぬなんてことはない。
 思う存分暴れられるところなんかは新種のスポーツをやってる感覚だ。

「スポーツかぁ……」
 俺たちは自分達がはまってる世界を亜美たちに説明した。
 その説明を聞いて手を口元にあてて考え込む亜美。
「おっもしろそー。なんか、マジで楽しみになってきたよ!」
 対して由紀は異常なまでに心を踊らせている。
 元々、由紀は亜美よりもゲームや新種ってもんに強いタイプだ。
 テレビゲームに抵抗が無いし、新しいものには何にでも手を出す好奇心を持っている。
 由紀に関してはマナに手を出していなかったのが不思議なくらいだ。

「アミ、考えてないでやってみようよ」
「そ、そうね……。スポーツ感覚だっていうなら、それなりに楽しめるかな」
「うんうん♪」
 亜美が意外にもマナを前向きに考えている。
 俺はてっきり、「野蛮よ」だとか「ゲームは……」とか言って参加しないんじゃないかと思てたんだが。
「ホントに大丈夫か?アミ」
「大丈夫よ。少なくとも、つまらなそうだって印象は受けなかったから」
「そっか。んじゃさっそく登録してくるか」
「うん♪」
 さっきからテンションが上がりっぱなしの由紀。
 声のトーンが通常比2倍以上に上がっている。相当楽しみなんだな。

 亜美たちを連れて受け付けに向かう俺と隼人。
 2人の申し込み用紙を提出し、さっそく装置のある個室に向かった。
 マナと現実をつなぐには、ここにある装置を使わなければならない。
 各個室には1台の装置が用意されていて、各自別の部屋の装置を使って意識をマナの世界に飛ばすことになる。
 初心者には音声案内が細かく装置の使い方を説明してくれるため、俺たちが説明する必要はない。

「じゃあ、後で向こうで合おうぜ」
「うん♪」
「心配しなくても大丈夫だよ、伊藤さん。ガイドが全部説明してくれるから」
「う、うん……」
 仕切る俺、はしゃぐ由紀、フォローする隼人とされる亜美。
 互いに声を掛け合って、俺たちは個室に入った。




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