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第6話  この世界の楽しみ方    progress by MIKI



 俺と隼人は既にこの世界のIDを持っているため、ログインにはさほど時間は掛からない。
 亜美たちは初期設定をしてからログインすることになるから少し時間が掛かるだろう。
 先にログインした俺と隼人は、広場を少し外れたところから広場の中心に向けて目を光らせていた。
 この世界にログインすると、すべてのプレイヤーはこの広場に現われる。
 亜美や由紀が入ってきたらすぐに見つけられるはずだ。

 まずは亜美たちと合流だな。その後はやるべきことの説明をしなきゃならない。
 初心者に説明するなんてやったことないから不安だな。

 しばらくすると広場に初心者ルックの女の子が2人続けて現われた。
 アミとユキという名のキャラクター、外見から名前まで明らかに亜美と由紀だった。
 俺たちはさっそく話し掛け、2人と合流することに成功した。
 名前や外見は初期設定でいじれるんだけど、亜美たちは俺たちと同じで現実のままにしたらしい。

「ホント、何もかも現実と変わらないのね」
 歩いてみたり、手に力を入れてみたりしながら亜美は感心している。
「なんか不思議だよね。ここにあるのはあたしたちの体じゃないんでしょ?」
「あぁ。体は現実世界で座ってるよ」
 向こうにある装置の上でな。

 歩いたりジャ ンプしたりで体の感覚を確かめる2人。
 俺たちは2人を連れて広場の中心から離れ、近くにある小さな別の広場に移動した。
 さっきいた広場はこの世界の中心、当然一番混む場所だ。
 いろいろと説明をするには人が多すぎて適さない。

「でだ。何から説明すべきか分からないから、とりあえずこの世界でのメインを説明しとくぞ」
 初心者に話すべき内容は山ほどある。
 その中でも、今すぐ理解しなきゃならないこととなると、それは1つだ。
「アミは分からないかもしれないが、RPGの世界で一番大切なことはレベルを上げることだ」
「うんうん」
「私もそのくらいなら何となく分かるよ」
 俺の話に応答する由紀と亜美。

「そのためにはモンスターを倒さなきゃならない」
 静かに聞き続ける亜美たちに対し俺は話を進める。
「そのモンスターってのがあれだ」
 俺は広場横の通路を指差した。
 そこにはサングラスにモヒカン頭で分かりやすいチンピラルックのお兄ちゃんがうろついている。
「あれって……」
「あれは話し掛けちゃいけない人でしょ?」
 口を濁す亜美と、仮にも人だと思ってるチンピラをあれ呼ばわりする由紀。
「いや、アレはコンピュータプレイヤー。つまりはモンスターみたいもんだ」

「あいつの奥を見てみなよ」
 隼人に言われて視線をチンピラの先に向ける亜美と由紀。
 その先にはまったく同じ姿をしたチンピラが無数にうろついている。
「うわぁ、同じ人がいっぱいいるぅ……」
「わかったろ?アレみたいに同じ姿で集団になってたら、大抵の場合はコンピュータプレイヤーだよ」
「ふーん……」
 軽くひき気味の亜美たちはただただチンピラを見続けている。
 確かにあの光景には俺も驚かされた。
 格好だけならまだしも、顔までまったく同じなんだから。
 そんな光景、現実じゃまずありえない。驚くのも当然だ。

「要するにあいつらを倒してレベルを上げて、まわりの連中と強さを競い合うのがこの世界の遊び方だ。わかったか?」
「うん、なんか楽しめそうだよ」
「アミはどうだ?」
「私も楽しめそうかな」
「そいつはよかった」

 心配だった亜美のヤツも平気そうだし、とりあえず実際に戦わせてみるか。
 言葉での説明より、実際に体験した方が早いからな。

「ハヤト」
「了解。2人とも、これあげるよ」
 隼人はそう言いながら手を差し出した
「え?」
「なに?」
 何も手にしていない隼人の言葉に疑問を抱える2人。
 その直後、何もなかった隼人の手に突然グローブと銃が現われた。

「「えっ……!?」」
 瞬間的に隼人の手に視線を集め、隼人の顔を見て驚く亜美と由紀。
「すっごーい……。田口くん手品できるんだ」
「あはは、うれしいけど違うよ。手品みたいだけど誰にでもできることなんだ」
「そうなの?」
「うん」

 よくRPGの世界でアイテムをやたらと持ち歩く主人公っているだろ。
 ようはアレを可能にしたシステムなんだ。
 この世界では頭のなかにアイテム置場があって、そこからアイテムを取り出すイメージをすると、
 さっきの隼人みたいにアイテムを瞬時に取り出せる。
 逆にアイテムをしまうイメージをすると瞬時にアイテムをしまうことができる。

 ただ、個人の頭の中にあるアイテム置場は大きさに制限があるため、
 置ききれなくなったアイテムをしまう場所が必要になる。
 その場所っていうのがこの町の中心にある倉庫って施設なんだ。

「あ、ホントだ。できたできた」
「これ便利ね」
 隼人から受け取ったグローブと銃を入れたり出したりする亜美と由紀。
 この世界ではイメージすることで様々なことができる。
 会話や移動なんかも場合によってはイメージが必要になるくらいだ。
 初めのうちは大変だが、慣れてくればこれほど楽なものはない。

 って、これが目的じゃなかったな。

「そいつらを使ってあいつらと戦ってみろよ。実践を体験するのが一番だ」
「そうね。行こうかユキ」
「うん。あたしこっちね」
 由紀はそう言いながらグローブを手にはめる。
 亜美は余った銃を手に構え、由紀を追ってチンピラのもとに向かう。

「どうやって戦えばいいの?」
 チンピラの目の前に立ち、まったく襲い掛かってこないチンピラの顔を覗き込みながら由紀が言う。
「一度攻撃すればそいつから襲ってくるよ。そいつらは手を出さなきゃ襲ってこないようになってるんだ」
 町の中にいるコンピュータプレイヤーは大体そうだ。
 雑談してるところを襲われちゃたまらないからな。
 特にこの町は初心者の溜り場だからその方がいい。

 まぁ、中には自分から襲い掛かってくるコンピュータプレイヤーもいるけどな。

「アミは銃の使い方、分かるよな?」
「引き金を引けばいいんでしょ?でも、これであの人たちを狙うの?」
「あぁ」
「でも、それじゃあの人たち死んじゃうんじゃない?」
「倒していいんだぞ?それに、銃だからって一撃じゃ倒せないから安心しろ」
「そうなんだ。ならいいわ」

 亜美が何に疑問を感じたのかわかった気がする。
 グローブと銃じゃ威力が不公平なんじゃないかってことだろう。
 確かに現実世界でなら圧倒的に銃の方が強い。あんなチンピラ、まず一撃だろう。

 だけどマナの世界では違う。
 不公平さは調整されていて、一撃の威力はグローブの方が強いくらいだ。
 本来なら、銃や剣の一撃は即死もんだからな。
 そのままのバランスじゃ遊びとしては成り立たないのさ。
 その辺のリアルさは取りのぞいて、どんな武器でも対等に戦えるようにしたのがマナの世界だ。

 じゃなきゃみんなロケットランチャーや銃を使うだろ。
 そんなんじゃ面白みなんか、これっぽっちもないからな。




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