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第7話  ハチゼロ    progress by MIKI



「ホントだ。殴ったら反撃してきた」
 さっそくチンピラに手を出した由紀。
 反撃を開始したチンピラのナイフが由紀を切り付け、由紀のパンチがチンピラの顔面をとらえる。
 数回の攻防を経てチンピラはお金とアイテムを残して消えていった。
「今のでユキには経験値が入ったわけだ」
「これを繰り返せばレベルアップできるんだね」
「そういうこと。それと、倒した相手がお金とアイテムを落とすことがあるから拾っとけよ」
 お金もアイテムと同じ要領でしまうことができる。
 この世界ではこうやってアイテムやお金を集めていくんだ。

「もう1つ。視界の端の方に3本のメーターが見えるだろ?」
「うん、右と左のメーターが減ってるよ?」
「左のは体力メーターだ。真ん中がスキルメーターで右がスタミナメーター」
 マナの世界はそういう仕様になってる。
 自分の体力やスタミナは数値化されて見えるから、これに注意しながら戦わなきゃならない。
 視界に浮いて見えるのは戦闘中目を閉じるなんてことはできないからだろうな。
「体力が空になると病院に送られちまう。それから手持ちの金の半分と経験値のロスト、装備品のロストなんかも起こるから気を付けろよ」
「なるほど。倒されちゃいけないってわけね」
 当たり前の話だけど由紀の言う通りだ。
 倒されるといろいろペナルティが課されるから、倒されちゃいけない。

「スキルとスタミナっていうのは?」
「スキルってのは必殺技のことだな。スキルの覚え方は今度説明するから待ってろ。ただ、スキルってのは使うごとにメーターを消費する。そのメーターが足りないとスキルが使えないんだ」
 中にはメーターを使わないスキルもあるんだけどな。
「スタミナってのはまんまスタミナだ。そのメーターが少なくなってくると動きが鈍くなってきて、無くなると気絶って言って一定時間動けなくなっちまう」
 要するに戦闘中はこの3本のメーターに気を付けながら戦わなきゃならないわけ。
 ちなみに相手のメーターは分からないから、予想しながら戦わなけりゃならない。
 この辺が対人戦の駆け引きに影響してくるんだ。

 戦い方やレベルの上げ方、一応基本的なことを教えた俺たちはしばらく2人に狩りをさせた。
 狩りってのは今の亜美たちみたいにコンピュータプレイヤーを倒して経験値やお金を稼ぐこと。
 町のなかでの狩りってのは数分でおわる。
 それ以上はレベルが高くなりすぎてチンピラからじゃ経験値が稼げなくなるからだ。
 2人が経験値を稼げなくなったのを見計らって、俺は話を切り出した。

「とりあえずこれからやらなきゃならないことをまとめておくぞ」
「はーい」
 手を休めて近くの石段に腰掛ける由紀と亜美。
「1つ目は服の調達だ」
「うん、これも悪くはないけどちょっと恥ずかしいよね」
 初期の服装は全員同じ服になっている。
 これはマナの仕様だから仕方ないんだが、由紀の言うとおりで恥ずかしい。
 ペアルックってのもあるし、なにより初心者だと一目で分かる。

「あの辺り一帯が服屋だから適当に買ってやるよ。ブランド物は無理だけどな」
「おぉ、神楽くん太っ腹ぁ!」
「ミキ、あんたお金あるの?」
 おごりと聞いてはしゃぎだす由紀と、お金の心配をする亜美。
「おまえらの手持ちじゃ大したもん買えないだろ。物の値段は日本と変わらないんだぞ?」
 この数分で集められたのは、せいぜい3000円がいいところ。
 上着から下着、靴までとなると、とても買いそろえられる量じゃない。
「俺たちはこっちの世界じゃ金持ちだから任せとけって」
「……ホントに大丈夫?」
「あぁ」
「じゃあ……、お願いしようかな」
「おう」
 亜美が了承したところで俺たちは店に入った。
 この世界でも服の値段はピンキリで、ブランド物はおごってやれるような値段じゃない。
 俺と隼人は割勘で2人の服を買い、着替えが終わるのを外で待った。

 しばらくすると着替えを終えた2人が店の中から姿を現す。
 2人ともイメージにあった服装になって、ようやく初心者から抜け出せた感じだ。

「次行くぜ。次はユニへの登録をしてもらいたいんだ」
「「ユニ?」」
 声をそろえて聞き返す亜美と由紀。
 ユニってのは俺たちが組織するグループのことだ。
 イベントなんかはこのユニ単位での参加が条件になることが多い。
 簡単に言ってしまえば、気の合う仲間同士の集団のことだな。

「オッケー、つまり2人のチームに入ればいいのね?」
「そういうこと。2人が構わないなら、俺が手続きしておくよ」
「うん、よろしくね」
「田口くん、私もお願いできる?」
「うん、任せといて」

 大まかな説明で亜美と由紀は納得した。
 これでメンバーが2人増えて、うちのユニは合計9人になったわけだ。
 まだまだ小さなユニだが、メンバーが増えたのは心強い。

「ところで、あたしたちのユニの名前は何ていうの?」
「80って書いてハチゼロって読むんだ」
 うちの名前を説明する隼人。けどちょっと待て。
「一応、本名はエイトオーだからな」
「エイトオー?」
「いや、ハチゼロだよ」
 簡単に俺の言葉を否定する隼人。そして隼人の言葉を信じてしまう亜美と由紀。

 このユニの創設者はこの俺だ。俺はエイトオーと読ませるつもりでユニの名前を決めた。
 だが、まわりは俺の意思に反してハチゼロと呼びはじめ、
 気が付いた頃にはハチゼロの方が浸透してしまっていた。
 今じゃ虚しくなって俺もハチゼロと呼んでるくらいだ。

 まぁ八十って呼ばれなかっただけましか……。



「後は顔合わせだな」
「顔合わせ?」
 誰と顔を合わせるんだと言わんばかりに問い掛けてくる由紀。
 この子、いまいちユニってもののことを分かってないんじゃないか?
「新メンバーを元々のメンバーに紹介しなきゃならないだろ。それにお前らもうちのメンバーを知りたいだろ?」

 とは言っても、今日は集会の日じゃないんだよな。
 それに全員と同時に会わせても顔を覚えられないかもしれないし。
 1人ずつ順番に対面させたほうがよさそうか。
「とりあえず連中を探しに行くぞ」
「おー」
 元気良く返事をする由紀。
 俺たちは中央の広場に向かって歩きだした。

「あ、それから」
 突然思い出したように足を止めた俺に、
「ん?どうした?」
 隼人、
「なになに?」
 由紀、
「………?」
 そして亜美の3人が問い掛ける。いや、亜美は不思議そうな顔をしているだけか。
 一つ大切なことを忘れていた。

「こっちの世界じゃ名字で呼ぶのは禁止な。これはマナの世界での暗黙の了解。いいな?」
「ミキ、そりゃそうだけどよ……。どうも恥ずかしいぞ……?」
「慣れろ。お前が恥ずかしがってどうすんだ」
 確かに隼人はさっきから2人のことを名字で呼んでいた。
 マナ歴のながいお前がそんなんでどうするんだよ。

「オッケー。んじゃミッキーとハヤトくんね」
 ミッキーか……。でもまぁミキくんってのは変だし、これはこれでいいのかな。
「名前か……。よろしくね、ハヤト……くん」
 亜美のヤツもなんとかなりそうだな。
 ためらいがあるけど、時間が経てばなんとかなるだろう。
 問題は隼人だな。

「よろしくね。アミちゃん……、でいいかな……?」
「うん、よろしくね」
「ねェ、あたしは?」
 亜美に先に挨拶をした隼人に由紀が身を乗り出して問いかける。
「うん、よろしく。ゆ、ユキ……ちゃん……」
「よろしくねェ♪」
 なんで隼人が一番てこずってんだよ。2人が女だからか?
 まぁ慣れちまえばスムーズになるだろうからいいけどさ。
 こういうのは慣れだ、慣れ。

 呼び方も直ったところで、俺たちは中央の広場に移動した。
 うちのメンバーを見つけしだい強制連行して2人と顔合わせさせよう。




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