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第9話  特訓開始    progress by MIKI



 しばらく幽を捕まえて話をしていると、広場に3人目のメンバーが現われた。
 それに気が付いた俺は幽を狩りに行かせ、交替にくろと合流した。

 3人目のキャラクター名はくろ卵、以前はクロ豆だった。
 月ほどじゃないがくろの実力は本物。残念なことに俺より強い。
 ちなみに正式な役職にはついていないんだが、代わりに重要なポジションについてもらっている。

 ユニ内でくろの最大の仕事は月の制御だ。
 月とくろは現世でも知り合いらしく、月の扱いに一番長けているのはくろだ。
 正直、くろがいなきゃ俺はこのユニでマスターなんかやってられる自信が無い。
 くろは俺が一番信頼しているユニメンだ。

「頼りにしてるぜ、くろ」
 俺は挨拶を終えて亜美たちと話しをしているくろに話しかけた。
「どうしたの急に?」
「いや、説明してたらどうしても言いたくなっちまって」
「説明……?へんなミキ」
 そりゃお前にとってはそうだろうな。
 だけど俺に月は止められん。
「月をうちに置いとくにはくろが必要なんだ」
「あはは。ま、私に出来ることなら出来るかぎり協力するよ」
「あぁ、よろしくな」


 しばらくして隼人が2人の登録を終えて帰ってきた。
 その後月に聞いた話じゃ残りのメンバーは今日は来ないらしい。
 それを聞いた俺は、ほかにもやらなきゃならないことがあるんだが、
 今日は一先ず現世に戻ることを決めた。

 現世への戻り方は簡単だ。
 ログアウトしたいと考えればいい。
 俺たち4人はくろに別れを告げて現世に帰還した。



 現実に戻った俺たちは駐輪場で別れをすませると、それぞれの帰路に着いた。
 ただ一人自分の家に向かっていないのは隼人だ。
 隼人は時間が遅いからと、由紀を家に送るため、由紀を乗せて彼女の家に向かったんだ。

 隼人たちと別れた俺と亜美は並んで自転車を走らせている。
「マナはどうだった?楽しめそうか?」
「うん、悪くなかったよ。いきなり胸を触られたときは驚いたけどね」
「月には気を付けろよ。あいつの動きは予測不能だから」
「うん、気を付ける」

 亜美も由紀も、狩りしてるときもそれなりに楽しんでた。
 それにうちのメンバーとも自然に会話してたみたいだ。
 これなら心配する必要は無さそうだな。

「ねェ、さっき月さんと「面倒を見る」とかって話してたでしょ?あれってどういうこと?」
「あぁ。戦い方とかマナのこととか、まだ教えなきゃならないことはいっぱいあるんだけどさ。その辺のことは月に任せるって話」
「ミキは?」
「俺か?まぁ必要に応じてかな。聞かれりゃ答えるよ」
「そっ、ならいいわ」

 なんだ、亜美のヤツ。
 そんなこと聞かなくても分かるだろうに。
 いくら月に任せたからって、まったく面倒を見なくなるわけないだろ。

「じゃあな」
「うん、オヤスミ」
 亜美の家の前で一度自転車を止め、亜美に別れを告げて帰宅した。



後日    progress by AMI

「アミちん、敵を近づかせちゃあかんよ」
「はい!」
「ユキちん、相手の動きをよく見んしゃい」
「はい!」

 マナデビューを果たしたあの翌日から、私たちと月さんの特訓の日々が始まった。
 私たちはあれから毎日1時間の特訓を続けている。
 特訓の時間が短いのは月さんがそういう人だから。
 狩りは短期集中というのが月さんの考え方。
 どうも月さんはまわりの仲間と遊んでいるほうが好きらしい。それは私も同じかな。

 逆に狩りばかりしているのは未来。
 どうも未来は月さんに勝つために狩りをしなければならないらしい。
 隼人くんや幽さんの話じゃ、未来は今まで1度も月さんに勝ったことが無いらしい。
 月さんが強いのか、未来が弱いのか、それは私には分からない。
 ただまぁ、未来も弱いというほど弱いわけではないらしい。


「アミちん、ユキちん。 2人共、3匹相手にしてみようか」
「「はい!」」
 私たちは月さんに言われるがまま、3匹目のコンピュータプレイヤーに攻撃を仕掛けた。
 攻撃を受けたコンピュータプレイヤーは、3匹それぞれが別々の方向から攻撃を仕掛けてくる。
 月さんの話では、実際の対人戦でも複数人を相手にすることはよくあるらしい。
 これはそのための特訓。
 戦闘における視野の広域化、そして単純に戦い慣れするにはこの方法がいいらしい。

 確かに納得は出来る。
 みんなの話じゃうちのユニは人数が極めて少なく、ユニバトでは複数人を相手にしなければならないらしい。
 それに1対1ならコンピュータプレイヤーに負けることはまず無いが、複数を相手にすると結構きつい。
 コンピュータプレイヤーに追い詰められることで、そういうときにどう動くべきなのかを体で覚えることが出来る。
 対人戦とコンピュータプレイヤーとの戦いはやはり違うものだけど、
 それでも、狩りの中で出来る最も有意義な特訓だと思う。

「オッケー。今日はこの辺で止めとこか」
「「はい」」
 私と由紀はそれぞれが相手をしていたコンピュータプレイヤーに止めをさした。
 この世界では同じ姿のグループごとに強さが別れているらしい。
 ちなみに今戦ってたのはプロレスラーみたいな外見のコンピュータプレイヤー。
 マナデビューしたあの日に戦ったチンピラから7段階強くなった相手。
「もうこいつらじゃたいした練習にはならなそうやね」
「そんな……。十分きついですよ……」
「んにゃ、明日からはもう1つレベル上げよか」
「「はい……」」
 理屈は分かるし、納得も出来るんだけど、やっぱり辛い……。
 ここ最近の特訓で分かったのは、特訓になると月さんは厳しくなるってことかな。


 町に戻った私たちは、広場で私の知らない人と会話をはじめた月さんと別れた。
 一先ず、狩りで手に入れたアイテムをすべて換金し、次の狩りに出るための資金を手に入れる。
 これは毎日狩りの後にやっている日課ね。
 月さんの特訓ではかなり無茶をするから、そのまま戦ってたらまず体力が無くなっちゃう。
 倒されちゃ意味が無いから、私たちは倒されないように体力回復アイテムを使って狩りをしているの。
 それを買うにはお金が掛かるのよ。
 それにたった1時間の特訓でも、あれだけハードに動けば服も靴もぼろぼろになる。
 おかげで毎日新しい服と靴を買ってるわ。
 ま、当然安物の靴とジャージだけどね。
 特訓中はファッションなんて気にしてられないのよ。

『え〜、マスターミキより連絡です』
 資金を手に入れて明日のジャージを買い終えたとき、頭のなかに響くような未来の声が聞こえてきた。
 頭の中に紫色のイメージが広がるところをみると、どうやらユニチャのようね。
『予定どおりこれから集会を行うから、全員いつもの場所に集合してくれ』
「集会?」
「なんだろうね?」
 私と由紀は互いに顔を見合わせた。
 集会ってのはたぶん私たちがイメージできる集会だと思うからいいけどさ。
 いつもの場所ってどこよ。




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