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第10話  集会前の大問題    progress by AMI



 突然頭の中に響いてきた未来の声。
 これはユニチャって呼ばれる会話法によるものだと思う。

 ユニチャっていうのは、ユニオンチャットの略称らしい。
 ユニオンチャットっていうのは、ユニオンのメンバー同士にしか聞こえない特殊な会話法のこと。
 この方法では実際には言葉を発せず、イメージを使って会話をする。
 あいまいな言葉だけどテレパシーに近い感じかな。
 この会話法で話し掛けられると、頭のなかに紫色のイメージが広がる。
 これは他の会話法と区別するためらしい。

 同じようにイメージを使った会話法に、プライベートメッセージっていうのがある。
 みんながPMと呼ぶそれは、2人にしか聞こえない会話法。
 話し掛けたい相手の名前と顔をイメージしながら頭の中で話し掛けると、
 その相手にしか聞こえないテレパシーを送ることが出来る。
 これで話し掛けられると、頭のなかに黄緑色のイメージが広がる。

 あと、黄色いイメージが広がるのもあって、それはマナの運営側からの連絡を意味するらしい。

『アミ、ユキ。お前らは俺が迎えに行くから広場にいてくれ』
『リョーカーイ』
 頭の中で未来と由紀が会話している。
 慣れてくると本当に便利な方法よね。
 未来たちの話じゃ、どんなに離れてても会話できるらしい。
 たぶん未来のことだから、狩りをしているダンジョンから話し掛けてきたんだと思うけど、
 そんなことが可能なんだもん。
「広場行こっか」
「うん。すぐにミッキーも帰ってきそうだしね」
 未来のいう集会ってのに行くため、私たちは広場に向かった。

 広場の中央付近に注目しながらしばらく由紀と話していると、
 武器を装備したままで体に鎧をまとった未来が突然現われた。

 マナの世界にはみんながワープと呼ぶ移動法がある。
 これもイメージが大切で、名前と町並みを知っている町に一瞬で移動することが出来る。
 ただし移動先は町限定で、しかも町の中央にしか移動できない。
 不便といえば不便だけど、狩場から一瞬で町に戻ってこれるところを考えればやっぱり便利よね。

「ミッキー、こっちこっち」

 由紀は私の手を振り、未来に声をかけながら駆け寄っていく。
 駆け寄る私たちの目の前で、未来は一瞬にして鎧姿から私服姿へと服装をかえた。
 これも例によってイメージによる着替え。
 慣れれば戦闘中に武器を変えることも簡単にできるから便利ね。
 それに、着替える場所を考えなくていいのは特訓中の私たちにとってはすごく助かることなのよ。
 ぼろぼろのジャージじゃ恥ずかしくて町になんか入れないもの。

「おう、もう来てたのか」
 未来は武器をしまいながら、駆け寄ってくる私たちを見て言う。
「うん、ついさっき特訓が終わったとこ」
「そっか。月のやつもちゃんと仕事してるみたいだな」
「そりゃもう半端ないよ。ねェ、アミ」
「うん」
 私はそう言いながら顔を縦に振った。
 時間は1時間と短いけど、その間休む間なんてないもの。
 動きもハードだし、ユーザーを無視したどっかのダイエット法と大差ないわよ。

「ま、せいぜいしごかれてくれ。あいつに任せとけば強くはなれるからさ」
「え〜、ミッキーは女の子に強さを求めるの?」
「あぁ、バリバリ求めるぞ。うちがメンバー不足なのは知ってるだろ?マナの世界じゃ男女の身体能力差はないからな。それにお前らは期待の新人だし」
「へへ、期待の新人かぁ」
 未来の言葉に簡単に気をよくする由紀。
 由紀ってちょっと単純なところがあるのよね。
「さ、集会所にいくぞ。そろそろみんなが集まる頃だからな」
「はーい」
 元気よく手を挙げて返事をする由紀。

 その後私たちは未来の後について町を出た。
 町の周囲には草原が広がっており、この草原を越えて私たちは普段狩りに出かけている。
 草原にもコンピュータプレイヤーが所々に群れていて、
 私たちの行く集会所はどうやらその群れの中を通らなければ行けないらしい。
 ただ……

「こんな人たち見たことないけど、私たち勝てるかな……」
「なんか強そうだよ……」

 町のなかで狩りをしていた頃は知らなかったけど、同じコンピュータプレイヤーにもいくつかのタイプがあるらしい。
 私たちが今まで戦ったことがあるのはアクティブタイプと非アクティブタイプ。
 非アクティブタイプは町にいたチンピラみたいなタイプね。
 こっちから攻撃しなければ襲ってこないタイプ。
 逆にアクティブタイプは近づくと襲ってくるタイプ。
 このタイプは非アクのコンピュータプレイヤーに紛れてたまに出現するタイプらしい。

 一般的にアクティブタイプはどの群れにも必ず紛れてるらしいの。
 そうなるとこの群れにも紛れてる可能性は高い。
 つまり戦って勝てなきゃこの先には進めないってことよね。
 相手は体格のいいおじさんで、手には木を切るのに使いそうな電動のヤツを持っている。
 チェーンソーっていったっけ?

 由紀の言うように、外見だけなら今特訓で戦ってるプロレスラーみたいな人より強そうよね。
 なにより武器が悪質よ。実際に感じる痛みなんて大したことはないけど、あんなの怖くて戦えるはずない。
 実際なんか危なそうな音もしてるし……。
「ユキ、いけそう?」
「できれば帰りたい……」
 もう!なんでこんなところ通らなきゃならないところで集会するの!?
 町の広場でもいいじゃない!
「仕方ないから様子見るよ。1体に集中しよ?」
「……オッケー」
 私たちは互いに顔を見合わせ合図を交わし、武器を装備した。
 とりあえず、襲い掛かってきた敵に集中砲火ね。

「待て待て。お前ら、こいつらと戦う気か?」
 未来は私たちが武器を構えたことに疑問を抱いたらしい。
 まるで戦う必要が無いとばかりに話しかけてくる。
「だって戦わなきゃ集会所にいけないでしょ?」
「俺がいること忘れてないか?」
 私は未来がいることを忘れてなんかいない。
 だけど密度の高い群れの中を突き進むには、正面の敵は倒さなきゃ。
 正面だけに標的を絞ったってかなりの数よ?
「3人で力を合わせなきゃ進めないでしょ?」
「お前ら、月の強さを見てないのか?」
「……どういうこと?」
 月さんの強さは話でしか聞いたことがない。
 月さんが未来より強いって話は聞いているけど、実際に月さんが戦っているところは見たことが無い。

「いいか。2人とも俺が合図したら正面に向かって走れよ」
「「走る?」」
 私も由紀も、未来が何を言っているのか分からなかった。
 正面にはコンピュータプレイ ヤーがたくさんいる。
 至近距離を駆け抜けたところで攻撃されるのは必須。
 この人たちの動作が鈍いから走り抜けても平気ってことかしら。
 外見だけならそれっぽさもあるけど……
「行け!」
「分かったわよ!いこ、ユキ」
「うん」




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