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第14話  鬼の子たち    progress by MIKI



「あんたもまだまだやね」
 刀を鞘に納めながら近寄ってくる月。
 まさか鞘を防具代わりに使ってくるとはな。
「それがお前の新スタイルか……?」
「そんなとこやね。て言っても武器だけやけどねん」
「……で、てめェは何してやがる……!?
 話をしながら、うつぶせに倒れている俺の背中に何気なく腰掛ける月。
「ちと疲れたから休憩を」
「人に腰掛けて休憩すんな!!
「ええやん、減るもんやないし」
「病院に行けねェだろ」

 病院に飛べるのは体力が空になったヤツだけ。
 ワープってのは触れてるヤツも一緒に飛ぶもんだから、
 生きてるヤツが体に触れてると病院には飛べなくなるんだ。

「行かなくてええよ。あと1試合やるから見てからにしんしゃい」
「どうせお前がハヤトをいじめて終わりだろ」
 隼人には悪いが、あいつじゃ月には勝てない。
 そんな結果の分かり切った試合を見る必要なんて、
「うちとちゃうよ、戦うの」
「……は?」
「アミちん、ユキちん、試合やよ」
 月は間違いなく2人の名前を口にした。俺の聞き間違いなんかじゃない。
「なんだよ、2人の戦いを見ろってのか?」
「そゆこと。実戦でどこまでいけるか見とこうと思ってね」

 月は亜美たちを手招きで呼び寄せながら続ける。

「アミちん、ユキちん。2人で組んでハヤっちと戦ってみぃ」
21ですか?」
 2人の力を見るって、2人で戦わせるわけじゃないのか。
 変則バトルってことはユニバトの予行演習ってとこだな。
 隼人相手にどこまで食らい付けるか、なかなか面白そうだ。
 隼人に手加減させて2人の実力を確かめておくか。

3人とも、準備はええね?」
「「はい」」
 声をそろえて返事をする亜美と由紀。2人は隼人と向かい合って武器を構えた。
「ち、ちょっと待てよ……」
 俺をはじめ、隼人もくろも幽もその光景に驚いて言葉を失った。
「あいつら防具を装備しないのか……!?」

 亜美も由紀も店で買えるTシャツにスカート、いわゆる私服って服装で戦おうとしている。
 まぁ防具の素でもあぁいう外見の服は作れるんだけど、防具には防具の雰囲気ってのがある。
 だけど2人の服にはそれが無い。
 あの服には防具としての能力が備わっていない、つまりダメージの軽減効果など一切無いただの服なわけだ。
 あんな服で隼人と戦ったら俺だって即死だそ。

「あれはお前の指示か、月?」
「2人は防具を持ってへんもん」
「持ってない?それじゃ狩りはどうしてるんだよ」
「防具を着なくたって死にゃしないでしょ。要は攻撃を食らわなきゃええんやから」
 月はさらりととんでもないことを言い放つ。
 確かに月の言うとおり、すべての攻撃をかわせれば防具は必要ない。
 けど、防具もなしに狩りしてるやつなんて見たことないぞ。
「あ。アミちん、ユキちん、2人とも武器だけは新しいの作っとき」
「「はーい」」

「おい月、あの武器ってまさか……」
 亜美たちが手に持っている武器はどことなく見覚えのある。
 防具を使わせないっていう月の指導の仕方を考えるとどうにも嫌な予感がさえぎった。
「うん、最初にあんたらが渡した武器のままやよ」
「そんなんでどうやって戦うんだよ」

 武器だって使う素の質によって攻撃力に大きな差がでてくる。
 俺が渡した武器なんか大した攻撃力を持ってないんだ。
 あんなの、普通の狩りでさえ使えないほど弱っちぃんだぞ。
 なにせ亜美たちが来る前に、俺と隼人がチンピラをいじめて手に入れた素で作ったんだからな。

「だから新しいの作らせてるやん」
「違ェよ。俺がしてるのは普段の狩りの話だ」
「コンピュータプレイヤーが相手ならアレでも十分いけんよ。まだ序盤やからたいした防御力もないし」
 確かに序盤の敵は攻撃力と体力が強くなるだけで、防御力はほとんどチンピラと変わらない。
 だけど初期の武器じゃ敵の増えすぎた体力に対応しきれないはずだ。
 つまりまわりの連中が2、3回の攻撃で倒している相手を、亜美たちは10回以上攻撃しなきゃ倒せないわけだ。
 防具も付けないでそんな戦い方してたら狩りの効率も上がらないし、何よりリスクが高すぎる。
「マジで鬼だな、お前……」
「成果がでればええんよ。まぁ見とき、鬼の子の真価をさ」
 いよいよ幽の手によって試合開始の合図が鳴った。



2対1    progress by AMI

 合図と同時に私たちは飛び出した。
 2対1というこの状況をうまく利用して戦わないと。

「私が援護するからユキは前に出て。ハヤトくんが相手でも2対1ならいけるわ」
「オッケー、あたしに当てないでね」
「もちろん。ユキはハヤトくんにだけ専念して」
「リョーカイ」

 私の武器は銃、由紀の戦い方を考えれば私はサポートにまわった方がいい。
 それに隼人くんの武器はどうやら槍のよう、槍が相手なら由紀の方が有利に戦える。
 この戦い方だと由紀のリスクが高くなるけど、私がうまく援護できれば……。

「いくよ、ハヤトくん!」
 先に仕掛けたのは由紀の方だった。
 掛け声と同時に地面を踏み込み、いっきに加速した由紀はそのまま隼人くんのふところに潜り込んだ。
 そのまま隼人くんのお腹目がけてパンチを繰り出す。
 由紀の攻撃に対し隼人くんはとっさに身を退き、棒で由紀の手を受けとめる。
 そのまま距離をとろうとする隼人くんに私は2回引き金を引いた。

 続けて飛び出した2つの銃弾。
 1つは隼人くんの額に直撃し、もう1つは槍によって進行を妨げられる。

「ナイス、アミ」
 由紀はそういうと、私の攻撃で後退が遅れた隼人くんのふところに再び飛び込んだ。



戦えない    progress by HAYATO

「やぁー」
「くっ……」

 常に接近戦を仕掛け、まったく離れようとしない由紀ちゃんと、隙を見つけて確実に俺を狙ってくる伊藤さん。
 こう間合いの違う2人に同時に攻められると戦いづらいなぁ。
 それに由紀ちゃんには手を出しづらいんだよね。
 かといって手を出さずにいればみんなに不審がられるし。
 どうしよう……。

「どうしたの、ハヤトくん?」
「えっ……!?
 突然由紀ちゃんに話し掛けられた俺は、あまりの突然さに一瞬頭が真っ白になった。
「さっきから攻撃してこないじゃん。なんかの作戦?」
「ま、まぁね……」
 未来に手加減しろって言われてるから、作戦と言えば作戦なのかもしれない。
 だけど……。
「ふ〜ん……、まぁいいや。なら遠慮しないよ」

 まずい、由紀ちゃんはすでに感付き始めている。
 ってことは他にも感付き始めているヤツはいるはずだ。
 みんなが由紀ちゃんと同じように何かの作戦だと勘違いしてくれれば助かるけど、
 中には感のいいヤツもいるだろうし……。
 そうはいっても相手は由紀ちゃん、手なんか出せっこない。
 どうしたもんかなぁ……。




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