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第15話  バトルスタイル    progress by HAYATO



 由紀ちゃんと伊藤さんのコンビ攻撃は防ぎきるので精一杯、とてもじゃないが考えてる余裕なんて……。
 このままじゃ何もできないうちに負けてしまう。
 負けるのは未来たちに不審がられてしまうし。
 なんとかして由紀ちゃんにマイナスイメージを持たれないように攻撃して勝たなきゃ。
 でもどうやって……。

「こらー、ハヤトー!ちゃんと戦えー!」
 まったく攻撃に転じない俺に嫌気がさしたのか、防戦一方の俺に未来が叫んだ。

 そんなこと言ったって相手が悪いよ。
 経験の関係上負けられない相手ではあるけど、個人的な都合上勝つわけにはいかない相手でもあるし。
 そりゃここはマナの世界で今は戦闘中、たとえ相手が女の子でもひいきはしない。
 伊藤さんや月さんとはそのつもりで戦ってるけど、でもやっぱり由紀ちゃんだけは……。

「ねェ、ハヤトくん?」
「は、はい」
 俺がまったく攻撃しようとしないからだろうか。
 由紀ちゃんの声に若干の怒りがこもっている。
「もしかしてあたしが女だからって手加減してる?」
「い、いや……。そんなことは……」
 由紀ちゃんは手を休めることなく攻め続け、さらに言葉でも俺を追い詰める。
「そんなのつまらないからやめてよね?」
「うん……」
 そんなこと言ってもさぁ。2人とも防具付けてないんだもんなぁ……。
 当たったら1発でアウトじゃん。そんなの攻撃しづらいよ……。

『ハヤっちぃ?』
『つ、月さん……!?』
 頭のなかに月さんの声が響く。これはPMか。
『やる気無いん?』
『い、いや、そんなことは……』
『リーに何言われたんか知らんけど、本気で戦わんと後でどうなっても知らんよ?』
『は、はい……』
 月さんのこの手の脅しは正直世界で一番怖い。
 マジでどうなるか分かったもんじゃ無い。

 まさか戦闘中に脅されるとは思わなかった。
 由紀ちゃんに手は出したくないけど、2人にあんなこと言われちゃやらないわけにはいかないよ。
 2人を敵にまわすわけにはいかないからね。
 覚悟を決めよう。

「ハヤトくん?」
「いくよ、ユキちゃん」
 俺はこの試合で初めて槍を振った。
 とっさに槍をかわした由紀ちゃんは距離をとって体勢を整える。
 数メートルの距離をおいて対峙する俺と由紀ちゃん。
「やっとやる気になってくれた?」
「ま、まぁね」
「よーし、こい。あたし負けないからね」
「俺だって負けないよ」



戦いの後    progress by MIKI

 それにしても、亜美たちの戦いぶりには驚かされた。
 隼人を相手に30分も生き延びるなんて尋常じゃない。
 試合の結果は隼人の圧勝だった。
 けどそれは結果だけの話で、実際の内容は隼人の攻撃のほとんどは回避され、
 たった1回の攻撃をヒットさせるのにかなりの時間を要した。
 防具を装備していない亜美たちは隼人の攻撃を受ければ一溜まりもない。
 それにまだまだ武器も威力がなく、攻撃を当てても雀の涙程度のダメージしか与えられない。

 結果としてはダメージをかえりみず戦った隼人が勝った。
 けど攻撃力、防御力、体力などは圧倒的に隼人の方が上だ。
 もし亜美たちに攻撃力があれば2人の圧勝じゃないか。
 月のヤツ、やっぱ只者じゃねェな……。


 現世に戻った俺と亜美は自転車を押しながら家へと向かった。
 時刻はじき9時になる。
 街灯と住宅地の明かりが照らす夜道を俺たちは並んで歩いている。

「今日は疲れたわね」
「狩りとは比べものになんねェだろ」

 狩りと対人戦とじゃ疲れの度合いがまるで違う。
 例えるなら、ちょうどスポーツの練習と試合が違うようなもんかな。
 緊張やら気合いやらで対人戦ってのはやたらと疲れるんだ。
 マナの世界に行く前に設定を考えておかないと、その後1週間は筋肉痛がおさまらない。
 ダイエットや筋トレなんて言ってられない状態になっちまう。

「そういえばさぁ、私たちが試合する前にスタイルがどうって言ってたじゃない。あれって?」
「あぁ、まだ説明してなかったな」

 早いところ亜美たちにもスタイルを決めてもらわなきゃならないし、ちょうどいいか。
 亜美に説明しておいて由紀に話してもらおう。

「スタイルってのは戦い方の分類だな」
「戦い方……」
「どういう武器を使って、なにを重点的に鍛えて、どんなスキルを使うかってことだ。つまり射程と性質だな」
「射程と性質?」
「わかりやすく説明するから聞いててくれ」
「うん、わかった」

 戦い方を射程で分類すると、3つのスタイルに分けることができる。
 遠距離タイプ、中距離タイプ、そして近距離タイプだな。
 近距離タイプってのは剣や槍を使ったり、殴ったり蹴ったりするようなタイプ。
 要するにうちのユニの連中みたいな戦い方だ。
 このタイプがマナの世界では一番多くて、全体の7 割以上がこのタイプにあたるようだ。

 中距離タイプは銃や魔法を使って、相手に近づかずに戦うタイプ。
 身近な例だと亜美の戦い方がこれにあたる。
 このタイプが全体の2割弱ってとこだ。

 遠距離タイプってのは中距離タイプ以上の距離から攻撃してくるタイプなんだけど、
 滅多にいないから例も挙げられないなぁ。


 性質で分けると物理攻撃タイプと魔法攻撃タイプ、サポートタイプの3つに分けられるな。
 これはスキルによる分類で、物理攻撃タイプは武器を使った物理的なスキルを主体に戦うタイプのことをいう。

 同様に魔法攻撃タイプは魔法的なスキルを主体に戦うタイプのことだ。
 俺の知るかぎりだと、火を噴いたり風を起こしたりするヤツがいるな。
 俺の白牙《波》も、かまいたちを起こしてるところを考えると魔法っぽくもあるんだが、
 アレはちょっと特別で、一応物理攻撃なんだ。
 まぁ、魔法っての自体が曖昧なものだからな。
 スキルを覚えるときの設定で魔法にすれば魔法になっちまうし。
 深く考えるだけ時間の無駄だ。

 あと1つはサポートタイプだな。
 こいつはサポートスキルを主体に使うタイプなんだけど、このサポートスキルってのがちょっと特殊なんだ。
 このスキルは自分や相手のステー タスを変化させるスキルで、一般的にダメージは与えられない。
 一般的にこのタイプのヤツは仲間と一緒に狩りをしてるな。
 なにせ攻撃的なスキルが少ないせいで、相手にあわせた攻撃ができないからな。
 ただ、仲間を強化できるから使い用によっては戦いを有利に運ぶこともできる。
 主な活躍場所はやっぱユニバトだろうな。

 ま、ユニバトではいろんなタイプが交じってたほうが相手に合わせやすいから、
 結局はメンバー間でバランスをとることが必要ってわけだ。
 その点、うちはほとんど全員が近距離の物理攻撃タイプ、とてもバランスがとれてるとは言えない。
 まぁ負けててもそれなりに楽しんでるからいいけど。

「わかったか、アミ?」
「なんとなくね。私たちそんなこと全く考えてなかったわ」
「はじめのうちは慣れることと基本ステータスの強化が目的になるからな」
「なるほど。回避能力はなんにしても必要そうだしね」
「そういうこと」
 ま、お前らみたいな狩りは普通しないけどな。
「なんにしても、そろそろスタイル考えといた方がいいぞ」
「うん、明日ユキと一緒に考えてみるね」
「おう。じゃ、また明日な」
 説明しながら歩いてたらいつのまにか亜美の家の前に着いていた。
「うん、オヤスミ」
 俺は亜美が家に入っていくのを見送り、その後帰宅した。




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