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第16話  眼人のスパイ日記    progress by GAN



 突然ですがはじめまして。
 私、ユニオン・ホワイトウィンドウのサブマスターをしている眼人と申します。
 眼(まなこ)の人と書いてガンジンって読んでもらってます。
 日本史に出てくる鑑真からとりました。

 さてそんな僕ですが、我がユニのマスターからある任務を任され、まさに今、それを遂行している最中です。
 任務内容はずばり偵察という名のスパイ活動です。
 来週うちはユニバトをするのですが、その相手というのがなんとあのハチゼロ。
 そう、マスター・ミキをはじめとする曲者ぞろいのハチゼロが相手なのです。

 僕もうちのマスターも元はハチゼロのメンバーだから、彼らのことはよく知っているんですけどね。
 ただまぁ、戦い方が変わってるってこともありえますし、そこら辺をチェックしておかないと。
 というわけでさっそくスパイ開始です。



 最初はハヤトと幽ですね。
 彼らと僕、それとうちのマスターの4人はほとんど同じ時期にハチゼロに入ったんですよね。
 つまり同期です。
 2人の戦い方は長いこと見てきたんで、今更偵察する意味もないんですが、
 最近幽がスタイルを変えたという話を聞いたので一応偵察しておきましょう。

「甘いねハヤト」
「幽こそ。そんなことじゃ、またユニバトで足引っ張ることになるよ」
 2人は互いに言い合いながら、周囲にうごめくコンプレをこれでもかと言わんばかりに叩きのめしていく。

 あ、コンプレっていうのはコンピュータプレイヤーのことです。
 毎度長い名前だなと思っていたので、勝手に略しちゃいました。

 どうやら狩りがてら競い合ってるみたいですね。

「アフィラードショット!」
 勢い良く突き出されたハヤトの槍が、複数のコンプレを一気に貫いた。
 アフィラードショット、ハヤトがだいぶ前から使ってる物凄い勢いの突き技ですね。
 あのスキルはまともに食らうとまずいですけど、まぁ軌道が直線的だし、隙をつかれなければ問題は無いでしょう。
「よし、射程距離も伸びてきたな」
7匹同時か、やるじゃん」
 ……射程距離には注意が必要そうですね。

「次は僕の番だね」
「そんな武器で薙ぎ倒せるのか?」
「まぁ見てなって」
 幽は最近武器を変えてますからね。
 ここはスパイとしてしっかり偵察しておかないと。

「剣銃技(けんじゅうぎ)……回転銃口!」
 パパパパパっと、まるでマシンガンのように短い間隔で発砲しつつ、
 幽は回転しながらコンプレに突っ込んでいった。
 左手に握られているのは幽の新しい武器、名前は確かガンズブレイド。
 右手に握っているのはただの銃らしいですね。
 回転しながら左右の銃と左手の刃で次々とコンプレを倒していく幽。
 あれって目が回ったりしないのかな。

「7匹、俺と同じだね」
「ちぇ。もう2、3匹はいけると思ったのに」
 いやいやいや……、7匹ってすごい数ですよ。
 同期といえど油断できない相手ですね。



 次はマスターとくろさんですね。
 2人とも問答無用の実力者、うちが勝つにはこの2人をなんとかしなければ。
 人数的にはこっちのほうが上ですし、2対1、3対1に持ち込めば勝ち目もあるでしょう。
 2人とも接近戦メインのスタイルですから、基本的に近づかなければ攻撃を受ける心配は
「赤牙《波》!」
 ない……、あれ?
 マスターが叫びながら振った剣が火炎放射みたいに火を噴いてる。
 さらに火は直進を続け、その先にいるコンプレを次々と飲み込んでいく。
 これってマスターの新スキルですよね。

 まさか遠距離攻撃が可能だなんて……。
 マスターだけは対策を考えなければなりませんね。

「ん〜……、なんか違うんだよな」
「違うって?」
 腕を組んで悩みはじめたマスターにくろさんが問い掛けた。
「月を倒すのに必要なのはこういうスキルじゃないんだよ」
「あはは。相手は完全に月なんだね」
「まぁな。あいつだけは必ず倒してやるんだ」
 どうもマスターは打倒月さんに執着しすぎてるんですよね。
 やっぱり部下が自分より強いっていうのは我慢ならないんでしょうか。

「ミキはどんなスキルで月に対抗しようと思ってるの?」
「それが決まれば苦労しねェよ。いったいどんなスキルなら月に通用するんだろうな?」
「そうだね。私のスキルはカウンターばっかりだから参考にならないし」
 くろさんはやっぱりカウンターがメインみたいですね。
 なら遠距離から攻めれば問題無さそうですね。
「なぁ、くろのカウンターって月に効くのか?」
「ん、そこそこかな。直接競い合ったことが少ないからなんとも言えないけど」
「それもそうか。ってもカウンターは俺にはあわなそうだしなぁ」
 絶対合わないですね。
 僕が見てきたマスターはどう考えても自分から殴りかかるタイプです。
 相手が攻めてくるのを待つなんて絶対無理です。

「……なんか、さっきから馬鹿にされてる気がする……」
「えっ?私は何も馬鹿になんかしてないよ?」
「いや、くろじゃなくて、なんかこう……昔の仲間で来週の対戦相手みたいなやつにさ」
 それって僕以外考えられないじゃないですか。
 それに僕、口に出してスパイなんかして無いですよ!?
 なんて限定的な第六感をお持ちなんですか。
「まぁ、気のせいだろうけど」
「そうだよ。まさか眼くんがそこの茂みに隠れてるわけでもないし」
 当たってるし。
 感でスパイの存在を当てただけにとどまらず、スパイの正体まで当ててしまった。
 なんかこの2人が強い理由がわかった気がする。



 さ、気を取り直して次に行きましょう。
 どうもハチゼロには新メンバーが入ったらしいんですよ。
 アミさんとユキさんていうらしいんですけどね。
 彼女達はあの月さんに鍛えてもらってるらしくて、もし噂が本当なら新人といえど要注意なんです。
 だから偵察に来たんですけど……、何やってるんでしょう。

「アミ行ったよー」
「オッケー。ナイスボールよ、ユキ」
 ユキさんはボールを宙高く上げ、アミさんはそれに向かって高く舞い上がった。
「行くよ、アキナちゃん」
「よーし来い」
 アミさんは落下してくるボールにタイミングを合わせ、手のひらで勢い良く叩き落とした。
 4人の間にあるネットの上を越えて相手のコートに入ったボール。
 それが地面につく前に反対のコートで構えるアキナさんはレシーブを上げた。

「ナッキー!」
「任せなさい!」
 アキナさんの上げたボールはネットぎりぎりで高く上がり、ナツキさんへの絶好球となった。
 すかさず飛び上がったナツキさんは、先程のアミさんをはるかに凌ぐ勢いで猛烈なスパイクを繰り出した。
 ボールはアミさんたちのコートを射ぬき、大きく跳ね上がって遥か後方のフェンスに突きささった。

 直撃したら殺人スパイクですね……。




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