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第22話  消える迅、疾風陽炎    progress by MIKI



「今日こそ圧勝させてもらうぜ、迅」
 毎度毎度微妙な差で、結局トータルでは引き分けに落ち着いている俺たちの勝負。
 このシーソーゲームを終わらせるにはどこかで大勝しなきゃならん。
 それが今日だって話だ。
「そう簡単にやらせるかよ。あの子の前で負けるわけにはいかないんだ」

 あの子って誰のことだ?
 迅が月やくろのことをそんな風に呼ぶわけないし。
 ホワイトウィンドウには、はなしかいないはずだし。まさか……

「はな……か?」
「なわけあるか。あんな子供に興味無いっつうの」
 はなではないのか……。
 となるとうちの連中の誰かってことになるが……。
 こりゃ聞いといて後でみんなにバラしてやるしかないな。

「誰なんだよ、そいつは」
「アミちゃんだよ、おまえんとこの新人の」
 ……亜美?
 なんだこいつ、亜美のことが好きなのか?
 こりゃ、からかいがいがあるな。
「というわけで俺は負けるわけにはいかないんだ。悪いけど勝たせてもらうぞ」
「冗談、アミの前に不様な姿をさらしやがれ」

 迅、お前が亜美のどこが気に入って好きだって言ってるのかは知らない。
 けどな、亜美のことが好きだっていうなら、その亜美に格好わるいところを見られちまえよ。
 その方がおもしろいからさ。
「いくぞリー!」
「おう、かかってこい」
「さぁ来い!」
「いや、お前が来いよ……」
 今お前いくぞって言ったろ……。
 なに待ち構えてやがる……。
 いつからそんなつまらないギャグを言うようなやつに成り下がったんだお前は。
 ……はなの影響か?
「油断したろ」

(なっ……!?

 呆れながら眺めていた視界から、突如迅が姿を消した。
 驚きと同時に我に戻った俺は左右に素早く視線を走らせた。
 そのときどこからか迅の声が聞こえてくる。覚悟しろと。
 第六感によって迅の位置を感じ取った俺は、とっさに肩の上から剣を回し、後方に刃をたてた。
 俺はガギッという鈍い金属音と同時に後方から衝撃と、圧迫するような力を受けた。

「……さすがに早いな」
「当たり前だ。あれで隙をついたつもりかよ」
「でも油断してただろ。背後に回り込まれるか、普通」
「うっせ!」

 どうやら俺は迅の作戦にはまったらしい。
 会話で俺を油断させておいて、自慢の足で一気に背後から襲い掛かる。
 間一髪防げたがこの体勢、ピンチは変わらない。
 力も入らなけりゃ、迅の動きも見えやしない。げんにジリジリと力で押されてる。
 振り返ろうにも隙が生じるし、かと言ってこのままの体勢で迅を押し返すなんて無理だ。

 どうする……。

「これでしまいだ!」
 迅はそう言うとバックステップで後退し助走距離をとった。
 起死回生のチャンスはここしかない。
 一気に走り込んできた迅に対し、俺は振り向きざまに体を後方に倒す。
 俺は体を倒したことで迅の攻撃をかわし、迅の真下に入り込んだ。

 カウンターのチャンス!

「食らえ、迅!」
 武器も出払い無防備となった迅の腹を目がけて、俺は飛び上がりながら剣を振り上げた。
 渾身の力をこめた俺の剣は迅の腹を勢い良く輪切りにする。

(仕留めた!)
 俺はそう確信した。だが……
「甘いぜ、リー!」
 その直後、迅は再び姿を消した。
 しまったと思ったときにはもう手遅れ。
「疾風陽炎(しっぷうかげろう)!」
 迅が叫ぶと同時に、俺が斬った迅は姿を消した。
 そして突然目の前に現われると、迅は宙を漂う俺目がけて飛び上がり、素早く剣を振りぬいた。

 頭から一刀両断された俺の体力は一瞬にして空になり、俺は不様に地面に落ちた。
 遅れて着地した迅は剣を腰にさしながら、動けない俺に近づいてくる。
「俺の作戦勝ちだな」
 俺を見下ろしながら勝ち誇った顔で言う迅。
 なんか腹立つ光景だな……。
「なにが作戦だ、あんなバカげた作戦があるか」
「そのふざけた作戦にまんまと引っ掛かったのはどこのどいつだったかな。なぁ、リー?」
「て、てめェ……。ここで待ってろよ。すぐに戻ってきてぶっ飛ばしてやるからな」

 俺はすぐにキャンプに飛んだ。
 俺たちの勝敗はその試合のトータルで決めている。
 つまりこのユニバト中に俺が迅より多くあいつを倒せば、俺の勝ちってことだ。
 まだ俺の負けと決まったわけじゃない。
 早いとこ戻って今度こそ迅をぶっとばしてやる。

 キャンプの奥にあるベッドの上で復活した俺は、適当に薬を買いそろえてキャンプを出た。

 が、俺はすぐに足を止めた。
 キャンプからそう遠くない位置に妙な光の柱を見たからだ。
 何かと思って周囲を見回すと、ホワイトウィンドウの連中が3人、光の柱を囲うようにして立っているのがわかった。
 そして光のなかをよく見ると、なんか見覚えのある奴らがいるじゃないか。
 俺は小走りに光の柱に近づき、中の2人に気付かれたところで話し掛けた。

「だせェな。なに捕まってやがんだ」
「どうせ戦わないんやから、どこで見てようとうちらの勝手やん」
 見事にやる気なく、光の中で座り込んでいる月。
 触った感じじゃこの光の檻、剣で斬ったぐらいじゃ壊れそうにないな。

 術者は周りで囲んでいるあの3人か。
 こりゃ中からじゃ脱出は難しそうだな。
「出してやろうか♪?」
 俺は嫌味に聞こえるようににやけながら言った。
「えぇよ。出たくなったら自力で出るから」
 素直に「助けて」って言えよ、つまんねェだろ。
「可愛くねェの」
「あら、うちもくろもこんなに可愛いやん。視力悪いんちゃうの?」
「くろはそうだとしても、月、お前は全然可愛くねェ」
 とりあえず性格が最悪だ。可愛い言う前にその性格を何とかせいや。
「あーぁ。ダメやよリー、くろにそんなこと言っちゃ……」
「あ、あぁ……」
 くろは顔を真っ赤にして、もじもじと顔を隠すように背中を向けている。
 なんか、ものすごく恥ずかしそうだ。

 くろはどういうわけか、ほめられることにまるで免疫が無い。
 特に「可愛い」みたいな女の子をほめる言葉にはめっぽう弱く、
 そのことを忘れてほめると、いつもあぁやって顔を赤く染めている。

 つうか、先にくろまで巻き込んだのは月の方だ。俺のせいじゃねェぞ。
 ……こりゃ話題を早く切り替えないと。
 俺はとっさに別の話題を探した。
 そして
「そういや試合はどうなってんだ?」
 とっさに思いついた言葉を月に投げ掛けた。
「12対13で今のところうちが負けとるよ」
「うっそ!?負けてんの?」

 誰だ、足引っ張ってるやつは。
 隼人たちか?
「幽んとこは92で勝ち越しとるね。2人ははなにやられてもポイントを取られにくいかんね」
 じゃあ亜美たちか?
「アミちんたちも眼相手になかなかねばっとるよ。34でほぼ互角やね。眼もサブマスやからポイントは取られにくいんやろね」
 亜美たちもなかなかやるな。
 ん、待てよ?じゃあ足引っ張ってんのは
「リーは迅に負けて、今んとこ07で大敗やね」
 俺か!!




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