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第23話  檻から出た女の子    progress by MIKI



 忘れてたぜ。
 迅はホワイトウィンドウじゃ平メンバー、俺より2つも階級が下なんだった。
 つまり俺が1回やられれば向こうに7点も入っちまう。
 そのくせ俺が迅を倒しても1ポイントしか入らない。
 いつもの感覚でやってたら、俺と迅の勝負が引き分けでもユニバトには負けちまうわけだ。
 迅に負ける気はないが、ただ勝つだけじゃまずいわけだ。
 圧勝しないとユニバトで足を引っ張ることになるな。
 ホワイトウィンドウに負けたなんてことが他のユニにばれたら、いい笑いもんになっちまう。

「こりゃ迅を……ボッコボコにするしかないな……」
「相手を変える気は無いんやね」
「俺がはなの相手すんのか?」
 それじゃ本来の目的からそれるじゃないか。
「いや、うちやくろなら迅をいたぶれるし。この際あんたがここで捕まって」
「ふっざけんな、迅は俺の獲物だ。お前がずっと捕まってろ。じゃあな」
 俺は2人から離れて迅の待つもとの戦場にむかって走りだした。

 要するに俺が迅の7倍、あいつを倒せばいいんだろうが。
 余裕だぜ。



待ち構えて叩く
    progress by KURO

 1時間にわたる試合もあっという間に50分が経過した。
 得点はハチゼロが158、対するホワイトウィンドウは235
 この差のほとんどはミキと迅の決闘によって作られている。
 試合時間はあと10分、10分でこの差は普通なら取り返しがつかないよ。

「どうする、月?」
「しゃーないわ、うちらも参戦しよか」
 うつぶせに寝転び、試合を観戦していた月。
 試合時間も無くなってきたこのタイミングでついに立ち上がった。
「どう脱出するの?手伝おうか?」
「えぇよ、うちだけで十分」
 月は立ち上がると、うちのキャンプの方向に向かって鞘に収めたままの刀を構えた。
 あれは月が得意な居合いの構えだね。
 どうやら月はこの光の壁を力技で突破するつもりらしい。

「おい、なんかする気だぞ。集中しろ」
 私たちを囲む3人の男たちは月が構えたのにつられて警戒を強めた。
「ばーか」
 月は小さな声でそう言うと、3人の意表を衝いて後方に居合いの剣閃を飛ばした。
 筋状にのびた白い剣閃は月の後方、ホワイトウィンドウのキャンプ側の光の壁に当たった。
 その威力で壁の一部に人が2、3人通れるほどの穴が開いた。

「くろ、あの3人は任せてえぇ?」
「うん、任せて」
 私は小さくうなずいた。
「んじゃ行ってくる」
 月は刀を再び鞘に戻しながら、うれしそうに走りだした。

 月は戦いになるとすごく楽しそうな顔をするんだよね。
 無邪気な子供みたいな笑顔でさ。

 あ、もう迅を倒した。ついでにミキも倒れてるけど……
 あ、はなちゃんもだ。
 眼くんたちに手を出さなかったのはアミちゃんたちの訓練を邪魔したくなかったからかな。
 月は走りだして1分ほどで5人を薙ぎ倒した。

 1分で5人のところに走り寄れる脚力も尋常じゃないね。
 移動距離にするとだいたい500メートルはあるし、移動だけで1分かかるよ。

 あぁ、ポイントがどんどん増えてる。
 月はホワイトウィンドウのキャンプ前で待ち構えてるみたいだね。
 キャンプって2分以上中にいちゃいけないって決まりがあるから、待ち構えられると困るだろうなぁ。
 きっと出てきたところを容赦なく叩いてるんだと思うよ。

 さてと、私も早いところここから出ないとまた閉じ込められちゃうね。
「くろ!」
 穴に向かって歩いていると突然背後から私を呼ぶ声が聞こえてきた。
 足を止めて振り替えると、ミキがキャンプの方から走り寄ってきた。
「ミキ、どうしたの?」
「月に迅もろとも斬り倒された」
「あはは、それで相手にもポイントが入ってたんだ」
 月がホワイトウィンドウのメンバーを倒しはじめた頃、ホワイトウィンドウの方にもポイントが加算されるのを見た。
 月がミキを倒しちゃったんだね。たぶんわざとだろうけど。

「月のやつ、どうやってここを出たんだ?」
「壁を斬って出ていったよ。ほら、ここに穴があるでしょ」
 私は後ろの穴をミキの位置から見えるように立ち位置を変えながら言った。
「なるほど……。くろは出なくていいのか?」
「うん、今出ようと思って」
「でも穴が閉じはじめてるぞ?」
 私はミキに言われて穴を見た。
 うん、確かに閉じちゃったね。

「あいつら倒せばいいんだろ?手伝おうか?」
「うん、じゃあお願いしようかな」
「おっしゃ、ちょっと待ってろ」
 ミキはそう言いながら私を囲む3人に向かっていった。
 そのすぐ後、ミキのおかげで私を囲っていた壁は消滅、私は無事に脱出することができた。

 しばらくして私たちはハヤトくんたちと合流、さらにハヤトくんの協力で眼くんを倒したアミちゃんたちと合流した。
 眼くんやはなちゃん、迅もあそこだから私たちの相手は誰もいなくなってしまった。
 私たちは敵のいない草原を歩き、月が暴れているホワイトウィンドウのキャンプの近くに移動することにした。

「くろさん、月さんていつからあんなに強くなったんですか……?」
 月はキャンプから出てくる相手を片っ端から一撃で倒していく。
 その月の戦いぶりを見たアミちゃんは軽く引き気味な口調で尋ねてきた。
「はじめた頃から群を抜いてたよ。私だけじゃなくて、ミキや眼くんも勝ったこと無いみたいだし」
「くろ……」
 悲しそうな声で私の名前を呼ぶミキ。
「あ、ごめんなさい……」
「いいけどさ……、本当のことだし……」


 その後、月につられてミキも参戦するが、あえなく迅の手によって撃沈。
 その間に月は眼くんやはなちゃんたちを次々と倒し、これ以上無い速度でポイントを重ねていった。
 そして……

 試合開始時と同様、上空に数字が浮かび上がり試合終了を告げた。
「おっつかれーい」
「「お疲れさまです」」
 気分爽快といった表情で戻ってきた月と挨拶を交わすアミちゃんとユキちゃん。
 私たちとも挨拶をすませた月は真っすぐミキに近づき、話し掛けた。
「足引っ張らんでよ」
「はぅ……」
 唐突に重たい言葉を投げ付けた月。
 ミキも頑張ってたんだけどね。



絶対に……    progress by MIKI

 試合終了後、俺たちはいつもの集会所で短時間の反省会をすませ帰路に着いた。
 結局、251対245でハチゼロはなんとか勝利を収めた。
 誰が見ても勝てたのは月のおかげ、げんに月が参戦するまでは負けてたしな。
 まぁ感謝はしてるつもりだ。けど、あいつが俺を倒したのも事実。
 絶対仕返ししてやるからな。




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