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第28話  隼人出陣    progress by MIKI



 とりあえずソハ、シノマ、そしてファムの相手は決まった。
 それはいいとして、問題はラミって脇役だ。
 仕返しのためにわざわざ入った眼や迅にやらせてやりたい気もするが、
 隼人も由紀がやられたのを聞いて怒ってたからなぁ……。

 あ、迅はどうでもいいか。勝手に入ってきただけだし。

「マスター」
 隼人と眼、どちらに任せるか考えていると、眼が俺を呼び掛けた。
「できれば僕にやらせていただけませんか?かたきを討ってってはなちゃんに頼まれちゃって」
「……そうだな。眼ははなの代わりに入ったわけだし、ここは眼に任せるか」
 自分のユニを一度脱退してまで参加してる眼に任せないのもひどい話だ。
 隼人にゃ悪いがここは眼に任せるべきだろう。
「ありがとうございます」
 何だか知らんが隼人も迅も一切文句を言うことなく、各人の担当は決まった。
 その他の戦い方に関しては各人の判断に任せるという形で作戦会議は幕を閉じた。

 試合開始までまだ時間が残っていたから、俺は亜美に話を聞いてみることにした。
 俺が気になっていたのは、亜美が由紀とタッグを組みたいと言ってきたことだ。
 亜美は見かけによらずの負けず嫌い。俺の感覚で言えば亜美はタイマンでやり返そうとするはずだ。
 なのに亜美はそうしなかった。

「ちょっと試したいことがあるのよ」
 なんでと問いかけた俺に亜美は武器の整備をしながら応えた。
「試したいこと?」

 亜美が言うには、亜美と由紀はつい最近スタイルを変えたらしい。
 いや、ようやくスタイルが決まったと言った方が正確か。
 マナデビューしてからこれまで月に訓練させられていた2人だが、つい最近その訓練が終了したらしい。
 その話は月からも聞いていたんだが、今の今まで忘れてた。

 訓練、つまり回避など戦闘の基本を身につけた亜美たちに、
 ようやくスタイルを考えていいと月から許可が下りたらしい。
 そして月から離れて2人でスタイルを考え、その能力を亜美たちなりに鍛えてきたってわけだ。
 そのスタイルがタイマンには不向きで、実戦で真価を測るにはタッグを組む必要があるってことらしい。
 月でさえ今だに知らない亜美と由紀の新スタイル、ここは一つお手並み拝見といきますか。

 まぁ、俺に2人を見てる余裕があればの話だけどな。


 さて、いよいよ空にカウントダウンを示す数字があらわれた。
 まもなく試合開始だ。
「アミとユキ、それからくろと眼はそれぞれターゲットに向かって走れ。他は4人を邪魔しようとする奴らを片っ端から引き付けるんだ」
「「了解!」」
「行くぞ!」
 空の数字が消えると同時に俺たちはキャンプを飛び出す。

 全員で固まって走る中、くろが若干遅れだした。
 50メートルほど走ってバジリスクの連中が見えはじめた頃だ。
「どうしたくろ?」
「荷物が多くてね。ちょっと短距離走は苦手みたい」
「そうか。……じゃあ月と幽はくろに合わせてくれ」
「「ラジャー」」
 くろを1人にするのは心もとないし、全員をくろに合わせるのは効率が悪い。
 特攻で相手がわけも分からない間にターゲットを強襲するのが今回の作戦だからな。
「他はこのまま行くぞ!」
「「おぉー!」」
 遅れだしたくろのサポートを月たちに任せ、俺たちは先行して仕掛けることにした。

 相手も走っているようで、あっという間に距離は詰まり、瞬く間に敵の1人が攻め込んできた。
 どうやら敵の特攻隊長的なヤツらしい。狙われているのはどうやら由紀のようだ。
 隼人もそれに気が付いたのか、由紀目がけて手持ちの剣を振りかぶった男の前に飛び出した。
 隼人は自分の槍先で相手の刀身を受けとめ、男にわずかな時間の隙を生じさせた。
「ミキ、こいつは俺が引き受けた」
「おう、負けんなよ」
 俺たちは立ち止まることなく隼人の横を走り抜けた。



やり辛い
    progress by HAYATO


 対戦相手が決まってる由紀ちゃんに向かってきた、空気の読めない男を俺は担当することになった。
 俺が槍の先で相手の剣を止め、男の動きを止めたところで、ミキを先頭にみんなが次々と走り抜けていく。
「ありがと、ハヤトくん」
「がんばってね」
 抜き去り際に亜美ちゃんと由紀ちゃんはそう声をかけてくれた。
 亜美ちゃんの「ありがとう」は由紀ちゃんを助けてくれてって意味だろう。

 迅さんや眼も通り抜けたところで俺は槍を引き、すかさず相手キャンプ側に陣取って
 男がミキたちを追おうとするのを封じた。
 すぐに月さんたちも通過し、この場からうちのキャンプ側には俺たち以外誰もいなくなった。

「なんだお前、俺があの女を狙ったら目付きが変わったな。彼女なのか?」
「違うよ、ただの友達さ」
 何も由紀ちゃんが狙われたから飛び出したわけじゃない。
 いや、それもあるけど……。

 とりあえず俺たちの役目は、あの4人が目当ての敵と戦えるようにサポートすること。
 フリーメンバーの中で一番格下の俺が出るのは当然だ。
 自分で言うのは情けないけどね。

「とにかく、これから30分間は俺に付き合ってもらうよ」
 俺は武器を構えて戦闘態勢に入った。
「いいぜ。けど勝負は俺がもらう」
「そうはいかないよ」
 それから数秒、俺たちは武器を構え、隙をうかがいあう形で硬直した。
「いくぞ!」

 先に仕掛けたのは相手の方だった。
 男は剣を引きずりながら前進し、徐々に間合いを詰めてくる。
 だが足場が柔いせいで速度にはのれていない。この足場の柔さが嫌な方向に効いてこなきゃいいけど。

 なんて言ってる間に男はもう目の前まで迫ってきている。
 あの剣を引きずる行動にはなにか意味があるのだろうか。正直耳障りだ。

 近づいてくる男に対し、俺は牽制の意味で槍を突き出した。
 男はすかさず身を横に倒して槍を避けると、一気に地面を蹴って俺のふところに飛び込もうとした。
 だが、砂や貝殻で作られた足場では踏み込みも効果が薄く、急加速が成功したとは言えなかった。
 俺も間合いをとろうとバックステップで後退するが、こっちも足を取られて普段の距離の半分も後退できなかった。
 互いに足を落ち着かせ、2メートルほどの間隔をとって静止したところで、俺たちは同時に口を開いた。

「「やりづれェ……」」

 こんなに足を取られちゃ、いつものように回避行動に頼った戦い方はできない。
 かといって防御にまわろうにも俺の武器は槍、リーチが長い分防御には不向きだ。
 一般的に槍は剣に勝るとされてるけど、それは現実世界での話だ。
 超人的な動きが可能なマナの世界じゃリーチの内側に潜り込むことも可能なわけだから、
 一般の考え方は通用しない。
 だけど槍が剣に勝てる唯一の長所はやっぱりリーチ。
 この足場を逆に利用して、相手の間合いの外から攻めてみよう。




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