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第29話  飛んできた2人    progress by MIKI



「迅、いくぞ!」
「おうよ!」

 隼人が抜けた先行隊の人数は5人、亜美たちを除けば俺と迅の2人だけだ。
 向かってきたのは名無しくんが3人。
 さすがに迅1人に任せるわけにはいかず、俺も援護にまわることにした。

「アミ、ユキ、眼!お前らは目当ての敵を目指せ」
 敵に進路を阻まれ立ち止まった亜美たちの前に飛び出し、亜美たちをかばう俺と迅。
「うん。迅さん、ありがとうございます」
「おう、アミちゃんたちも気をつけなよ」
「はい」
 再び走りだした亜美たちに手を出そうとした奴らに対し、
 俺たちは電光石火の如く超スピードで足止めの攻撃を仕掛けた。

 といっても奴らだって雑魚じゃない。俺たちが足止めに来ることを当然予測していたのだろう。
 3人揃って俺たちの奇襲を防ぎ、ニヤニヤと嫌味な顔で俺たちを挑発してきた。

「おい迅、お前何人やりたい?」
3人だな」
「ふざけんな、お前は1人で十分だろ」

 俺を差し置いて1人で全員を相手にしようなんて甘いっつうの。

「月たちが追い付くまでの数秒間、俺が2人を相手にするぞ」
「いいからお前はアミちゃんたちを追い掛けろよ。ファムの相手すんだろ?」
「いいから俺に従えよ。今は俺の部下なんだぞ、迅二等兵♪?」
「う゛っ……」

 この言葉で迅はようやくおとなしくなった。
 そう、お前は今俺の部下なんだからおとなしく言うこと聞いてりゃいいんだよ。

「てなわけで、チャッチャと終わらせるぞ」
「辛かったら言えよ、いつでも代わってやるから」
「誰が」
 雑魚相手の1対2、余裕だっつうの。



仲のよさが不安
    progress by AMI


「やっぱり来たな」
 私たちを見てそうつぶやいたのは、あのとき私たちを襲った3人組のリーダー格、名前はソハ。
 隣にはラミとシノマが並んでいる。
 また彼らの後ろにはマスターのファム、それから初見の男が1人。

 やっぱりってことは彼らも私たちを待ってたのかしら。

「あと2人の女はどうしたわけ?あ、逃げちゃった?」
 シノマが言っているのは、くろさんとはなちゃんのことだろう。
「くろさんは今こっちに向かってるわ」
「僕ははなちんの代わりです」
 私と眼さんは2人が逃げていないことを教えようと、少し強い口調で言った。
「なーんだ、逃げてたらいい笑い者になってたのに」

 いつもどおりの人を馬鹿にしたような口調のシノマ。彼女と一緒に笑うソハ、ラミ。
 3人の言葉が私たちの闘争心に火を点けた。

「シノマさん、後ろの方と私たちの相手をしてくれない?」
 私と由紀は1歩前に出てシノマに挑戦状を叩きつけた。
「いいよ、アタシもあんたたちに目つけてたし」
 シノマは私の注文どおり、後ろに下がっていた男を呼び出した。

 私たちがシノマたち2人と場所を変えるために歩き始めたそのとき、
「待て」
 腕を組んで待ち構えていたファムが話し掛けてきた。
「あのときケンカを買いに来たやつはどうした?」
 どうやら未来のことを探してるみたいね。

「ミキも後ろに」
 いる、と言おうとしたとき、後方からそれを遮るように声が聞こえてきた。
「俺ならここにいるぞー」
 声の聞こえ方を不思議に思いながら後方を見たがそこに未来の姿はなかった。
 まさかと思いながらも視線を上にずらしたとき、私は自分の目を疑った。
「アミ、ユキ、突然であれなんだけど、そこから離れてくれ」
 未来はどういうわけか空を飛んで現われた。
 まぁ着地位置を考えずに飛んできたところを見ると、飛んだというより飛ばされたに近いのかもしれないけど。

 私と由紀は未来の落下地点になるであろうこの場所から数歩離れ、未来の落下を見守った。

ドシャッ!

「「ださっ」」
 私と由紀は着地に失敗して砂浜に転がった未来を見て口をそろえた。
 それを聞いた未来はムッとした顔で立ち上がり、私たちに目を合わせて言う。
「うっせェな、あんな飛ばされ方してまともに着地できるか!」
 飛ばされ方ってやっぱり飛ばされたのね。
 それにしてもなんて登場の仕方してんのよ。

 未来が格下の相手に飛ばされるなんて考えられないから、おそらく月さん辺りだと思うけど。
 月さんに飛ばされたんだとしたら、月さんがいるのは50メートルも後ろ、大規模な人間ロケットじゃない。
 普通に走ってきなさいよ。

「ねェ、また来たけど?」
「え?」
 シノマに言われて私たちは未来が飛んできた軌跡を目で追った。
 確かにさっきの未来と同じように人が飛んできた。今度はくろさんだ。

「ね、ねェ……」
 由紀はくろさんの状態に気付き声をつまらせた。
 その直後私はくろさんの状態を未来に確認するために口を開いた。
「ミキ、私の錯覚ならいいんだけど……、くろさん、気を失ってない……?」
 私の目にはとてもくろさんに意識があるようには見えない。
 未来は私の問い掛けに、くろさんを見上げながら答えた。
「あぁ、気絶してるな……」

 未来はそう言うと手に持っていた剣をしまい、飛んでくるくろさんの軌道上に入り込んだ。
 そして頭から飛んできたくろさんを空中でガッシリとつかみ、
 未来はくろさんをしっかりと抱きかかえたまま砂浜に倒れた。

「重……」
「ミキ、女の子に向かって失礼でしょ!?
 くろさんを重いと言った未来を私は怒鳴りつけた。
 未来、あんた最低よ。女の子に向かって重いだなんて。
 男ならしっかり受けとめてあげなさいよ。

「う…ん……」
 なんて文句を心の中で言っていると、気絶していたくろさんが目を覚ました。
「くろ、大丈夫か?」

 いまだ倒れたままのくろさんを肩をつかんで起こしながら未来はくろさんに話し掛ける。

「くろ?」
「う、うん……だいじょう……」
 くろさんは何かに気が付いたように、急に黙り込んでしまった。
 その後くろさんの顔は目に見えて赤くなり、恥ずかしそうに体を丸めてしまう。
「えっ、なに、どうしたの?」
 由紀もくろさんの様子に驚いて、砂浜に座ったままの2人に駆け寄った。
「ミキ……、その……肩を……」
「あ。悪りぃ……」

 未来はそう言いながらくろさんの肩から手を離した。
 くろさんは体に触れられるのもダメなのね。
 女同士で遊んでるときも水着になるのに抵抗があったみたいだし、そうとうな恥ずかしがり屋みたい。
 未来が手を離して少し時間が経った頃、ようやく落ち着いたのか、くろさんは服の砂をはらいながら立ち上がった。

「もう平気か?」
「うん。助けてくれたのにごめんね」
「気にすんな。俺の方こそ気がつかなくて悪かったな」
 互いに譲り合う未来とくろさん、なんか仲がよさそうね。
 そういえば2人は狩りも一緒らしいけど、付き合ってたりするのかしら。

 ……なに考えてんだろ、私。




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