←トップに戻る     ←第31話に戻る     第33話に進む→





第32話  風をまとって    progress by GAN



 剣を構えたラミに合わせて、僕も胸の前に剣を構えた。
 どう攻めてくるつもりです?
 正面からですか?それとも僕の背後をとる作戦でも?
 何にしてもそう簡単にはいきませんよ。

「食らえ!」
 ラミは剣を地面に刺すと、砂をまき上げるように振り上げ砂を僕に向かって飛ばしてきた。
 それをまともに受けてしまった僕は目を封じられてしまった。
「うっ、なにを……」
「目潰しを卑怯とか言うなよ。戦いはこういうもんだ」
 卑怯という気はないけど目を潰されてしまいましたね。

 僕は相手のオーラで動きを読めるほど人離れしてませんし、目を拭うしかありませんね。
 僕はその隙に攻撃してくるであろうラミに警戒しつつ目に入った砂を取り始めた。
 ラミは案の定攻撃を開始したようで、正面から砂を踏む足音が聞こえてきた。
 音の大きさと方向から大方の位置は推測できるが、それは確じゃない。
 早いところ目の砂を取らないと不利になりますね。

「くたばれ!」
 ラミはそう言いながら大きく振りかぶった剣を力一杯振り下ろした。
 僕はそれを前方に構えた剣で受け止め、ラミの剣を薙払う。
「ダメですよ。せっかく目を潰して視界を奪ったのに、そんな大声を出したら居場所と行動を教えているようなもんですよ?」
「う、うるせェな。相手に忠告してんじゃねェよ……!」
「では、僕は引かせてもらいます」
「あ、待てこのやろう……!?」

 僕はラミが油断した一瞬の隙をついて海に向かって走り出した。
 幸い海はすぐ近くで、足の感覚で海水を感じた僕はそのまま海中にダイブした。
 海水で目の砂を洗い流し、顔にまとわり付いた水を振り払いながら立ち上がる。
 海が近くて助かった。お陰で相手が追って来る前に視界を回復させることが出来た。

 ラミも追うのを諦めていたらしく、波の来ない砂浜で棒立ちしていたようです。

「水があって助かりました」
「確に、この場所じゃ目潰しは効かないな」
「そんなこと言って、また使う気ですね」
「当たり前だろ。有利に戦えるのは間違いないからな」

 まぁ確にそうなんですけどね。
 僕としては正々堂々と真正面からぶつかりあいたいんですよ。
 なんて愚痴を言っていても仕方ありませんね。行きます。

 ラミが剣を構えたのを見て僕は走り出した。
 正面から胴切りを仕掛けたが当然のごとく受け流され、ラミは僕の体が無防備になったところに斬りかかってきた。
 僕はとっさに身を引きそれを避けると、入れ替わりに無防備になったラミを下から切り上げた。
 ラミがとっさに体の前で腕を交差したために、剣はラミの腕に直撃、僕はその勢いのままラミを宙に舞い上げた。

「これで終りです!」

 戦いにおいてむやみに飛び上がるのは定石ではない。
 人間にとって真下は死角になりやすいし、身動きがとりづらいため隙が生じやすいからです。
 だから僕はラミを宙に打ち上げて身動きを封じ、そこに追い討ちをかけようと飛び上がったわけです。

「そう簡単にやられるか!」
 ラミは視界の外から追って来た僕の肩を使って体勢を整え、空中で僕と向き合った。
「行きますよ」
「来い!」

 地上数メートルの位置を漂うラミを追って飛び上がった僕は、そのままラミに空中戦を挑んだ。
 互いに剣を振って攻撃を繰り返した僕たちだったが、そのほとんどは受け止められ、また受け流される。
 仮に当たってもそれはかすった程度のもので、決定的なダメージには繋がらず、
 いつのまにか僕の足は地面についていた。

 僕が何度か切り上げたためにラミは未だ宙を漂っているが、彼が落ちてくるのも時間の問題ですね。
 そう考えた僕は、真っ直ぐ頭を下にして落ちてくるラミに向かって再び飛び上がった。

「これで終りです!覚悟してください」
「終るのはお前の方だ。くたばれ!」

 ラミは剣を体の前に構え、体を一直線にして落下速度をかせぎ始めた。
 体重、速度、なにをとっても突進力は相手の方が上。
 突進力のある相手に正面から挑むのは無謀、ここは一度受け流してその隙を叩くべきですね。

 僕は作戦通りに受け流してラミの上に出ると、反転して足を上にし、空を蹴って降下速度をかせいだ。
 頭から地面に向かっていたラミはなんとか足から着地したものの、
 空中で体勢を整えるのに大きな隙を見せていた。
 僕はその隙にラミに急接近し、ラミが着地すると同時に彼を自分の間合いに入れた。

「天剣・飛燕斬(てんけん・ひえんざん)!」

 スキルの発動と同時に僕の剣は砂浜を吹き抜けていた風をまとい、刃の回りでかまいたちを起こした。
 落下による突進力に剣の斬撃、そしてスキルによるかまいたちを重ねた僕の一撃はラミの肩口をとらえ、
 着地と同時にラミの体を切り抜けた。



負けず嫌い
    progress by AMI


「あたし、あんたが大っ嫌い!」
「あたしもあんたは気に入らないのよ、あのチビと同じくらいね!」
 いきなり言い争うのは由紀とシノマ。
 どうも互いのことが気に食わないらしく、さっきからずっとこの調子。
 ちなみにシノマの言うチビっていうのははなちゃんのことらしい。

 あの日シノマが攻撃したのははなちゃんで、由紀を攻撃したのはラミって人だから
 二人がいがみ合う理由はないはずなんだけど。
 どうも二人が互いを嫌いあっているのは人間性の問題みたいね。

「ユキ、熱くなるのは良いけど目的も忘れないでね」
「うん、大丈夫だよ。なにしろ初めての実戦だからね」

 私と由紀にとって、今日の試合はスタイルを変えて初めての試合になる。
 新しいスタイルの有効性や弱点を調べるためには、それ相応の戦い方をしなくちゃならないのよ。
 要するに、がむしゃらに戦っていればいいって問題じゃないわけね。
 どういう距離、どういう戦い方が合っているのか、苦手な間合いや相手の動きはどうなのか。
 そういうことを考えながら戦う必要があるのよ。
 普通に戦っててもある程度は考えるけど、今日は初試合、
 それ以上にいろいろと収集して次回以降に生かさなくちゃ。

 といっても、調査ばかりに専念して負けるつもりは無いけどね。
 調査が十分、もしくは戦いに専念しなくちゃと感じたら気持ちを切り替えるつもり。
 適度に情報収集、そして彼女たち二人に確実に勝利すること、それが今日の私と由紀の課題。
 自分たちよりベテランの二人を相手に自惚れてるかもしれないけど、それくらいできなきゃみんなに追いつけない。

 私も由紀も、人一倍負けず嫌いなのよ。

「さ、いこうかユキ」
「うん。サポートよろしくね」




←トップに戻る     ←第31話に戻る     第33話に進む→

inserted by FC2 system