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第35話  攻めるくろ    progress by SOHA



 俺の名前はソハ、バジリスクのサブマスの座を狙ってる。
 狙う理由はサブマスの特権が欲しいからだ。
 ユニのマスターやサブマスには様々な特権が与えられる。俺はそいつが欲しい。

 つい最近、うちのサブマスがユニを脱退してサブマスの席が空いたんだ。
 当時から実力No.3だった俺は、当然自分にその席がまわってくると確信していた。
 だが、その席は3週間前にうちに入ってきたプールの野郎に奪われちまった。
 ヤツをサブマスに任命したファムの話じゃ、俺より器があるかららしい。

 ふざけんじゃねェよ。
 実力なら俺の方が上のはずだ。
 そんな曖昧な理由で俺のサブマスの座を渡してたまるか。

 荒れた俺は、ユニに加入する以前からつるんでるラミ、シノマを連れてルナサイドの砂浜に向かった。
 そこでたまたまハチゼロの女4人を見掛けたから、うっぷんを晴らすためにPKしたんだ。
 そしたら都合のいいことに連中がユニバトを仕掛けてきた。
 このユニバトは、プールより俺の方がサブマスにふさわしいと証明する絶好の機会なんだ。

 こんな女一人に負けられるか!


 俺は何度も銃の引き金を引いた。
 その度に渇いた銃声が響き、同時に小豆大の銃弾が女に向かって飛び出す。
 だが女は銃弾を一切避けようとしなかった。
 すべて剣先でそっと触れるだけで軌道を変えてしまったのだ。
 軌道を変えられた銃弾は女に当たることなく砂浜に落ち、また遥か遠方に消えていった。

「くそが、なんで見きれるんだ……!?」
 俺は悔しさのあまり砂を蹴った。

 銃弾を感じて避けることはさほど難しいことじゃない。
 ある程度戦いに慣れてくれば誰にでも避けられる。
 だから俺はそれを逆手にとってスタミナを消耗させ、疲れはじめてから潰そうと作戦を考えたんだ。
 だがあの女は銃弾を感じるだけでなく、軌道を読み取り、無駄に力を使うことなく軌道を変えやがった。
 あんなことそう易々と出来ることじゃない。

 あいつがサブマスでもないなんて、ハチゼロの頭は化物か……!?

「ソハくん、もう諦めたの?」
 俺がしかけた銃弾の嵐を凌ぎきると、女はその右手に構えた細身の剣を鞘に戻しながら静かに口を開いた。
 あの落ち着いた雰囲気と口調が俺の不安感を増長する。
 俺は思わず後退りしてしまった。
「……それなら今度は私から行くよ」
 一度は鞘に納めた剣に手をかけながら、女は俺に向かって走り出した。

 俺は女に標準を合わせ、急いで引き金を引いた。
 しかし女は剣の先で銃弾を反らせ、一切止まることなく一直線に俺に向かってくる。
 一気に間合いを詰めた女は、構えた剣を俺めがけて振り下ろした。

ガギッ……!

 避けきれないと判断した俺は、5センチもない銃口で剣を受け止めた。
 不安定な釣り合いで力比べをする俺たち。

 俺は今日の試合で勝って、プールより実力があることをファムの野郎に教えてやらなきゃならないんだ。
 だからハチゼロの連中の情報は可能なかぎり仕入れてきた。
 くろ卵、こいつは相手のミスを利用して戦うカウンタータイプのはずだ。
 なのになんで自分から攻め込んで来やがる!?

「お前、カウンタータイプじゃなかったのか……!?」
 俺は少しずつ剣を押し返しながら言った。
「遠距離タイプを相手にカウンターもないよ」
 女は剣の角度を変えて俺の力を受け流しながら続けた。
「今日は私も本気だから」
 力を受け流されたことで俺はバランスを崩した。
 その俺に合わせてくろ卵は小さく一歩分、身を退いた。

 このままじゃ負ける。
 それは誰がどう考えても明らかだった。
 この至近距離で、無防備な相手にとどめをさせない奴なんてまずいない。

 前のめりになりバランスを保てない俺に女の剣が迫っていた。
 避けることも、防ぐこともできない。
 誰の目から見ても絶対絶命のピンチの中で、俺は用意していた最後の切札を使った。

「……お前、かわいいな」
 こっちも恥ずかしくなるような言葉。
 必死になりながらも平然を装って俺は言った。
 それを聞いたくろ卵は顔を真っ赤にして肩を丸め、斬らずに俺とすれ違う。

 くろ卵、お前の弱点だってちゃんと調査してるんだ。
 お前が外見をほめられるのが苦手だってことは当然調査済みだ。
 弱点をつかなきゃ勝てないってのはしゃくだが、負けるよりはマシだからな。

 バランスを整えて振り向いた俺の視界には、背を向けて固まるくろ卵の姿が映った。
 あの無防備な頭を撃ち抜けば終わりだ。
「くろちゃん、かわいいィー!」
 俺は念のため言葉で女の動きを封じながら、女の頭に標準を合わせて引き金を引いた。

 外れるなんてミジンにも思っていなかった俺。
 だが、くろ卵は静かに体をずらして銃弾を避けた。
「なっ……!?」
 俺は驚きのあまり、声を詰まらせた。

 避けやがった、外見をほめられるのが弱点のはずなのに。
 なんでだ、俺が仕入れた情報が間違ってたとでもいうのか……!?

「決着、つけるよ」

 くろ卵はそう呟くと剣を左手に持ち変え、頭の中からやたらといかつい剣を取り出した。
 それは彼女の細腕じゃまず扱いきれないであろう大剣だ。
 女は何を血迷ったのか、それを力いっぱい振り上げ、頭上高く投げ上げた。

「な、なんのつもりだ……!?」
 答えてくれると思ったわけじゃない。
 ただ頭で考えるよりも先に言葉が出ちまったんだ。
 当然女が俺の問いかけに答えることはない。

「舞い散れ、ディスプリュム」

 女は左手の剣を再び右手に持ち変え、その剣を振り下ろしながら叫んだ。
 その掛け声と同時に上空に浮かぶ大剣が10もの細剣に分離し、
 振り下ろされた右手の動作に合わせて上空から降り注ぐ。
 だが、降り注いだ剣は一本として俺に直撃することはなかった。
 剣は俺たちを中心とした半径5メートルほどの円周上に、意図されたように規則的に突き刺さった。

「いくよ」
 くろ卵は手に握った剣を構え、前傾姿勢になりながら呟いた。

 どうする気だ?
 そう考えたときにはすでに手遅れだった。

 くろ卵は手に持った剣を突きの形に構えると、そのまま走り出し、剣を俺の胸に突き刺した。
 それだけでかなりの致命傷を受けていたが、くろ卵の攻撃は止まらない。
 彼女は剣を手放したかと思うと、そのまま俺を抜いて走り去り、正面に突き刺さった剣を拾いあげた。
 その後は怒涛の連続攻撃だ。
 剣を突き刺しては新しい剣を拾いあげ、次々と俺の体を貫いていく。

 だが、どういうわけかダメージ量が少ない。
 普通ならとっくに空になっているはずの体力がまだ残っている。
 連撃系のスキルだから一撃の重みが軽いのか。
 移動速度は並レベルのはずのくろ卵が異常な速さで移動できているのはそのせいだろう。

 なんてことを考える間もなく、俺の体には計10本の剣が突き刺さっていた。
 手足さえも体に固定するように貫かれた今の俺には、もはや抵抗の手だては残されていない。
 負けられないという意思と、勝ち目がないという冷静な判断が同時に俺の頭をよぎった。

 最後の剣を拾いあげたくろ卵は、構えを通常の型に戻した。
「……桜舞天風(おうぶてんぷう)!」
 切り込みながらスキル名を口にするくろ卵。

 その後は何が起こっているかも分からないほどあっという間だった。
 気が付いたときには俺の体に刺さっていた剣はすべて引き抜かれていて、
 俺はボロボロの服装で砂浜に倒れていた。




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