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第36話  格上、ファムの焦り    progress by MIKI



 みんな順調に戦ってるみたいだな。
 あとは俺とファムの決着をつけるだけか。

 ってもそんなに簡単な話しじゃないんだ。
 戦い始めてしばらく経つけど全くけりがつかない。
 別に圧されてるわけじゃないんだけど、どうにも攻めきれない。
 さすがに強さを噂されるだけあるな。
 間違いなく強敵だ。

「なるほど、ケンカを売ってくるだけあるな。想像以上だ」
 警戒をゆるめ肩の力を抜きながら言うファム。
「そいつはどうも。お前は期待通りの強さだよ」
「……期待通り?」

 ファムは言葉に疑問の発音を含ませていた。
 普通なら「期待通り」なんて言葉は、相手が弱かったときや強い相手で楽しめそうなときに使うもんだ。
 使わないことも無いけど、互角にやりあってて「期待通り」ってのは確かに疑問だろうな。
 特にこういう決着の見えない均衡した状態だとな。

 ようするに
「勝てない次元じゃないってことだ。勝ち目がない相手だっているからな」
 例えばうちのサブマスとか。
 あいつクラスが相手じゃ、悔しいけど今の俺じゃ勝てない。
 けどこいつが相手なら頑張り次第では勝てる。
「なめられたもんだな。俺は大型ユニオン・バジリスクのマスターだってのに」
「ただ人数が多いだけだろ。マスターは俺も同じだ」空気が変わり始めたな。
 そろそろ試合再開になりそうだ。
「なろう。大勢の頂点に立つ者の力を見せてやる」
 武器をにぎる手に力を入れるファム。

 俺はそのファムよりも先に武器を構えて斬りかかった。
 キンッという高い金属音を響かせながら剣は幾度もぶつかりあう。
 さっきよりもより一層力を増した俺たちの攻撃は、互いの手を少なからず痺れさせていた。

 ほとんど同じ長さの剣、まったく同じバトルスタイル。
 違いのない俺たちの勝敗を決めるのは単純な力量の差。
 そうなれば負けられないのは互いに同じこと。

 力を込めた一撃でファムの剣を弾いた俺は、無防備に伸びた足に斬り込んだ。
「あぶねェ!」
 ファムは叫びながらバックステップで攻撃を避ける。
 だが無理な体勢からの後退が影響したな。
 着地に失敗して転びやがった。

 かっこうの餌食ってやつだ。

 俺は尻餅をついているファムに3度剣を振った。
 1回目、左上から振りきった剣はファムのすねに直撃。
 2回目、右上から振り下ろした剣はファムの剣によって受け止められた。
 3回目、ファムは転がることで俺の攻撃を完全に避けた。

「やろ……」
「今度はこっちからいくぞ」

 ファムは起き上がらずに剣を俺に投げつけ、ファムの手を離れた剣は俺の肩をとらえる。
 肩を貫かれた俺はそのまま剣に引っ張られ、バランスを崩した。
 倒れそうになるのを必死に堪える俺。
 ファムはそんな俺の腹に両足を揃え、肩を片手でつかんで、俺にぶら下がってきた。

「にゃろ……」
「終いだ、潰れろ」

 ファムは残った片手で俺に刺した剣をつかんだ。
 このまま力を込められたら急所ごと斬られちまう。
 そう判断した俺はとっさに剣を逆手に持ち変え、まとわりつくファムの背中に刃を向けた。

「食らえ、ファム!」
「んなことしたらお前も死ぬぞ?」
 刃を突きつけられても顔色1つ変えずにファムは言う。
 このやろう、俺がやれないと思ってやがるな。
 上等だ。
「負けられないんだよ!」
 俺は剣を握る手に力を込めた。
「正気か……!?……くそっ!」
 俺はファムの背中めがけて剣を引いた。

 刺さる瞬間、ファムは俺の腹を蹴って離れる。
 相撃ちにしようと全力で引いていた手は止まらず、ファムに避けられた剣はそのまま俺の脇腹を貫いた。
 とっさに軌道を変えて、急所への直撃は免れたけど。
 このダメージは痛い……。

「死んでねェのか」
 ダメージの重さにふらつきながらも立ち続けている俺に、残念そうにファムは言う。

 死んでてたまるか。
 殺られたならまだしも、自滅なんてダサすぎる。
 なにより、これじゃ俺がまるっきり格下みたいじゃないか。
 相手が格上ならそれなりの戦い方ってもんがある。

 俺はふらつく足に活を入れ、その場に踏み止まった。

「おし、戦い方を変えさせてもらうぞ」
「……別に構わねェけど?」
 お前を格上と認めてやるよ。
 悔しいけど俺より強いのは事実。
 けど、ここから先は弱者が強者に挑む戦いだ。
「弱者なめてっと怪我するぞ」

 弱者が強者に挑む戦い。
 ようするに負けないための戦いだ。
 引き分けを超えられればそれでいい。
 死にものぐるいの戦いを見せてやる。

 俺は走りながら剣を横に振った。
 同時に「白牙・波!」と叫ぶと剣の先が眩く光り、光の中をかまいたちが飛んだ。
 光をバックに飛んだかまいたちだが軌道は直線、先読みされ簡単にかき消された。

 だけどそれくらいは予想してる。
 俺は飛び上がり、ファムの頭にめがけて剣を振り下ろした。
「赤牙!」
 俺の声に合わせて剣は先から燃え上がる。
 だが、赤牙さえもファムには防がれてしまった。
 頭上に剣を構えて燃え盛る剣を受け止めるファム。

「ただ燃えてるだけだろ。そんなんで俺に勝てるかよ」
 ファムが言ったのを聞いて俺は笑った。

 確かに赤牙はただ燃えるだけのスキルだ。
 炎が当たらなければ間接的なダメージも与えられない。
 けど、赤牙の炎で暖められた剣は、スキルが終わっても高温のままなんだぜ。

 熱せられた空気は視界を妨げる。
 陽炎ってやつだ。こいつが見きれるか。

 スキルが終わったのを確認した俺は剣を一度戻し、その後で再び斬りかかった。

スパンッ!

 爽快な音とともに、俺はファムの肩を斬りつけた。

「なんだと……!?」
 紙一重で避けたつもりでいたファムは斬られたことに驚いたようだ。
「剣の位置がわからなきゃ、防ぎ様も避け様もないだろ」
 大げさに行動しなきゃ俺の攻撃は止められない。
 力量の差を埋めるには十分過ぎるハンデだ。

 戸惑っているファムに俺はさらに追い討ちを仕掛ける。
 数回攻撃が当たり、徐々にだが確実にダメージを与えていく。
 しばらくして、ファムは大げさに防御して俺との間合いをとった。
 蓄積ダメージに危機を感じたのかもしれない。

「潰す!」
 ファムはどうやら頭にきてるらしい。さっきまでとは口調が違う。
「お前が潰れろ、ファム!」

 俺に向かって走り出したファム。
 俺はファムに合わせて真正面から突っ込んだ。
 互いに力をぶつけ、押しきれないと判断して受け流し、すれ違う。
 俺たちはその後すぐに振り向き、目が合ったところで再び走り出した。

 互いに体力の底が近い。
 一撃で十分勝負がつくはずだ。
 この一撃は譲れない。

「終わりだ、ファム!」
 俺は走りながら、未だ冷めない剣を胸の前に構えた。
 剣の熱気がチリチリと顔を刺激する。
 この熱い一撃を食らわせてやる。
「死にかけのやつが意気がるなよ!?お前の負けだ!!」
 ファムも腰の横に、突きのスタイルで剣を構える。

 構えから攻撃方法が分かるのは致命的じゃないか?
 体力が無くなって思考力を失ったらしいな。
 明らかに勝負を焦ってやがる。

「「食らえ」」
「連牙!!」
「ファントム!!」

 俺たちはほとんど同時にスキルを発動した。
 スキル中の攻撃速度を上昇させ、通常比3倍の連続斬りを仕掛ける俺の連牙。
 対するファムのファントムは通常の突きを威力、速度ともに上昇させた一撃必殺型のスキルらしい。

 突きなんか当たらなけりゃ意味は無い。
 勝たせてもらうぞ、ファム。




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