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第37話  決着、そして……    progress by MIKI



 ファムの突き出した剣は的確に俺の胸の急所を狙っていた。
 つまり心臓だ。
 心臓は位置が高いせいで狙われると防御しづらい急所だ。
 それに多少動いた程度じゃ、急所は外しても別の場所を食らっちまう。
 これ以上のダメージが許されない俺にとっては、この上なく嫌な部位だ。

 ファムの野郎。
 焦って冷静さを欠いたように見えたけど、こういう所はやっぱしっかりしてやがる。
 さすがに一筋縄じゃいかないか。

 今の俺には2つの選択肢がある。



1.避けて、相手の横から連続斬りをかます
2.スキル同士の真っ向勝負を挑む



 普通なら1の方法でいくのが妥当だろう。
 けど、ここはあえて2で行こうと思う。

 最近、迅にも月にも負けてばかりだからな。
 ここらで調子を整えないと。
 そのためには小細工で勝つよりも、真っ向勝負であいつを倒したい。

 迫り来るファムの剣。
 俺はその剣に連牙による連続斬りを叩き込む。
 1回、2回、3回と、一瞬の間に数回、同じ場所に攻撃を加えた。
 剣同士がぶつかることによって生じた衝撃は、回を重ねる度にファムの剣の耐久力を奪っていく。
 そして、一切無駄のない的確な攻撃は、あっという間に剣を破壊した。

 俺のスキル持続時間はあと1秒弱。
 ファムは武器を失っている。
 この局面で最大の好機、グダグダしてる時間は無い。
 この間に決着をつける。
 俺はファムの正面からさらに1歩踏み込み、その間合いにファムを捉える。
 そして左右に2度、大きく剣を振った。

 剣はファムの腹と胸を鋭く斬り裂く。
 ファムの防具は剣に斬られたことで部位破壊を引き起こす。
 斬られたファムは剣の衝撃に圧されて小さく後退し、糸が切れたようにその場に倒れた。

「くそっ、負けた!」

 仰向けに倒れ、手足を大の字に広げたファム。
 どうやら俺が勝ったらしい。
 といっても俺の方も体力、装備ともにボロボロだ。
 一度キャンプに戻って整えるか。



 あっという間に30分は過ぎ、俺たちハチゼロとバジリスクのユニバトは終了の時間を迎えた。
 上空に現れた半透明な数字が0を示すと、同時に俺たちの攻撃は誰にも当たらなくなる。
 時間がくれば決着がついていなくても強制的に戦闘終了させられる。
 それがユニバトだ。

 俺はファムとすれ違って自分のキャンプに向かって歩き出した。


 俺がキャンプに戻った時には、既に全員がキャンプに集合していた。
 戦いを終えたばかりで、全身ボロボロの勇者たちだ。
「お、戻ってきた」
「ハヤト、随分苦戦してたみたいじゃないか」
 キャンプに戻った俺にいち早く気づいたのは隼人だった。
 隼人は名無しくんを相手に2勝1敗。
 本人はどうも結果に納得していないような顔をしていた。
「明日から自分を鍛え直すよ」
「手伝おうか?」
「1人で大丈夫だよ。スキルも考えたいしね」
「さよか」

 俺は修行を手伝おうかと申し出たが、隼人はそれを断った。
 どうも隼人は秘密の特訓ってのをしたいらしい。
 隼人も最近俺並に良いとこ無しだからな。
 隼人の決心がどうも他人事には思えない。
 俺もやってみようかな ……。

 と、それは置いといて、ひとまず閉めにゃ。

「みんな仕返しはできたみたいだな」
「うん、スッキリしたよ」
 笑顔で応える由紀。
 亜美もくろも試合前の力の入った表情から、普段の表情に戻っている。
 とりあえず目的は達成できたみたいだな。

 しばらくすると再びカウントダウンが始まり、その終わりと同時に俺たちは町に戻された。


 町に戻った俺たちは広場で待っていたはなと合流した。

 試合の結果は78対13で俺たちの圧勝だった。
 全員が思う存分暴れまわり、先日の不快感を解消できたようだ。
 ただ1人、月を除いては。
 敵が弱すぎてやる気を無くした月は、結局30分で1回しか戦闘をしなかったらしい。
 そのせいで、
「リー、迅。あんたら、うちに付き合ってくれへん?」
 なんてふざけたことを言いだした。

「それは2対1でって意味か?」
 迅も俺と同じ疑問を抱いたらしい。
 俺が尋ねる前に迅が口を開いた。
 その質問に対して頭を縦に振る月。
「冗談じゃねぇ。誰がこいつなんかと」
 俺は即効で返した。
 迅なんかと共同で月と戦うなんて、んなこと出来るか。
「その言葉、そのままお前に返すぜ。なんで俺がリーなんかと」
「だってタイマンじゃ絶対うちが勝つやん」
 月の言葉に、俺と迅は一瞬言葉を失った。

 俺一人じゃ月に勝てないだと?
 ふざけんな。
 俺は打倒月って目標を夢で終わらせる気はない。
 日々の精進は全て月を倒すため。
 いつだって勝つ気満々だっつーの。

「妙なこと言ってないで俺とタイマンで勝負しろ、月」
「だからそれじゃ結果が見えてるやん」
 軽く呆れ顔で月は言う。
 なんだその顔は。
 俺だってやればできる子だぞ。

 数秒悩んだ月は何かを閃いたように小さくうなずいた。
 月は俺と迅の肩を抱え、俺たちの耳元で小声で呟いた。

「お二人さん、防具の部位破壊って知っとる?」
「知ってるよ」
 馬鹿にすんな。

 防具の部位破壊ってのはつまりこういうことだ。
 ある一点の耐久度が限界を超えて低下すると、その点を中心に防具が壊れることがある。
 具体的には肌が露出して、その点だけ防御力が極端に落ちる現象だな。
 鎧に穴が空いちまったイメージかな。
 当然その周囲の劣化速度の上昇にも繋がる。

 つうかそれがなんだってんだ。

「あそこに何も知らずに立ってるアミちんがおるやん?」
 由紀や隼人、幽たちといっしょに、亜美は確かに月の視線の先にいる。
「うちならアミちんの胸の部位破壊するのに2秒かからんよ」
 なんか、今こいつが何を考えてるのかが分かった気がする。
 とんでもねェやろうだな、こいつ……。

 つまり亜美を人質にとりやがったわけだ。
 あの位置で胸の防具が壊れれば、隼人たちにその光景が見られるわな。
 俺は友達である亜美を巻き込むわけにはいかない。
 亜美に惚れてるらしい迅も同じだろう。

「うちと戦うん?」
 相当な上から目線で問いかける月。
 んなもん、選択肢なんてあって無いようなもんじゃないか。
「やってやるよ。迅、協力しろ」
「あぁ、アミちゃんを辱めるような真似はさせねェ」

 なんか月の手の上で踊らされてる気もするけど。
 そうは言っても、月を放っておくことはできそうにもないし。
 ここは迅みたいなクソやろうとでも組んで戦うしかない。
 まぁ、それも今回限りだ。
 今回は月の暴走を止めるために迅、お前を利用させてもらうぞ。




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