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第38話  凸凸コンビ    progress by MIKI



 ひょんなことから俺は迅と手を組むことになった。
 迅と同じチームで戦ったことはあったが、タッグを組むのは初めてだ。

 迅の実力は俺と大差ないからな。
 実力は認めざるをえない。
 だけど微妙だろ。
 俺と迅だぞ?チームワークは最悪だっつうの。
 まぁ戦ってやれば月の気は晴れるだろうから、亜美に危害が及ぶことは無いはずだ。
 その辺は心配無いと思うけど……。

 タッグを組んでまで月に負けるわけにはいかないだろ。
 そんな情けないマネできるか。

「準備えぇ?」
 まだかまだかとウズウズしている様子の月。
 刀を鞘から出したり入れたり、落ち着かない様子で俺たちを見ている。
「いつでもいいぞ。こっちから行こうか?」
「いや、うちから行かせてもらうわ」
 そう言うと月は刀を腰に構え手を当てたまま走り出した。
 月得意の居合いの構えだ。
 ボサッとしてるとあっという間にお陀仏だぞ。

「迅、サポートしろ。俺があいつを止めてやる」
「わーってるよ、指図すんな」

 俺たちは相変わらず互いに足を引っ張りながらも、向かって来る月に対して武器を構えた。
 月のやつ、俺たち二人を相手にして勝てる気でいるなら甘過ぎるぜ。
 俺(とバカ約一名)をナメんなよ。

 待ち構える迅を残し、俺は単身、月に向かって走り出した。

 月に動きが見られたのは、俺との距離が無くなり始めた頃だ。
 月は右手に握った鞘から刀を引き抜き始め、最後の一歩を踏み出すと同時に引き抜いた刀を水平に振った。俺はとっさに剣を縦に構え、刃を立てて月の刀を受け止める姿勢をとる。

キンッ!

 澄んだ金属音を響かせながら、俺たちの動きは完全に静止した。

「いくぞ、月」
「えぇよ。楽しませんしゃい」
 力比べは互角に終わった。
 俺はバックステップで距離をとり、再び斬り掛る。
 何度も金属音を響かせ衝突する二つ武器。
 刃溢れするんじゃないかというほど力強くぶつかるせいで、響く金属音も耳障りなほどに大きい。

「準備運動は足りた?」
 再び力比べを始めたところで月が口を開いた。
 軽く人間離れした戦い方をしている気もするが、俺たちの戦いはいつもこんな感じだ。
 体も暖まったし、
「そろそろ本気出すぞ」
「負けへんよ、リー」

 月から距離をとった俺はスキル「赤牙」の名を叫んで剣に火をつけた。
 燃え上がる剣を体の前に構え、揺れる炎の奥に月を捉える。
 月に狙いを定め、仕掛けようと一歩目を踏み出した瞬間、俺は二歩目を踏み止まった。

 突然、俺に背を向けて刀を構えた月。
 その瞬間は何だかわからなかったが、静止した月の奥を見てすぐに状況を把握できた。

「さすがだな、月」
「そろそろ来ると思ってたからね」

 月は突然襲いかかった迅の攻撃を防いでいた。
 迅は月が背を向けた隙をついて攻撃を仕掛けたらしい。
 そこでまた力比べでも始めてくれれば月の背後から仕掛けられる。
 迅、月を逃がすなよ。
 月の体でそっと迅の死角に入り、俺はスキルを発動した。

「連牙・波!」

 連牙は強制的に腕を動かして、実際には無理のある速度で連続斬りを繰り出すスキルだ。
 波はオプションでかまいたちを発生させる。
 つまり、連牙の波は無数のかまいたちを飛ばす。
 その上、赤牙の効果でかまいたちに炎が乗ってる。

 燃えるかまいたち、食らっとけ。

「む……?」
 何かを察知したように背後に顔を向ける月。
 おいおい、背後からの攻撃に気がつくなよ。
「ん?なんだ……?」
 迅の方が気がつくのが遅いっておかしいだろ。
 つうかこの不意打ち、普通なら気がつかれる前に当たるんだけど……。

 俺の攻撃に気がついちまった月は、迅との力比べを解いてすぐに横に飛び退いた。
 迅も当然飛び退いたせいで、かまいたちは誰にも当たることなく、勢いを失って消えていく。
 俺はちょっとさびしい気持ちになってたりする。


 そんななか迅が月から離れ、得意の超スピードで俺に飛びかかってきた。

「リー、てめぇ何しやがる!!殺るなら殺るで合図くらい送りやがれ、バカ!」
「うっせ。合図なんか送ったら月にバレんだろ!」

 迅伝えに月にバレたら意味がないから、わざわざ二人の死角に入ったんだ。
 そこまで考えてんだぞ。

「結局バレてんじゃねェか」
「やかましい」
 せめてお前だけでも食らえばよかったものを……。
「誰が食らうか。お前、仲間意識は欠片も無いのな」
「人の心の声を聞いてんじゃねェよ」
 人間にそんな力は宿ってないぞ。
 あぁ、そういうことか。
 元々人間でなかったと。

 ……それはそうと月のやつが見当たらないな。
 どこ行きやがった?
 迅も同じことを感じたらしく、俺たちは急にキョロキョロと挙動不審な行動をとりはじめた。

 その直後だった。

「誰かをお探し?」
 月はその言葉と共に、俺たちの背後に突然現れた。
 月の手には既に別れた刀と鞘。
 この後の月の行動を予測した俺と迅は、とっさに剣を体の横に構えた。
 月はちょうど両腕でラリアットをするように、左手の刀で迅を、右手の鞘で俺を攻撃してきた。
 とっさの判断で月の攻撃を防いだ俺と迅は、すぐさま距離をとるため前方に飛んだ。

「やるやん。どっちかは食らうと思ってたのに」
 とか言いつつも嬉しそうな顔の月。
 ありゃ間違いなく楽しんでんな。
「月。悪いけどそろそろ決着つけさせてもらうぞ。こいつとのペアをこれ以上続けるのは無理だ」
「全くだ。初めから無謀だったんだよ」
 めずらしく迅と意見があったな。
 早いところ決着つけてこいつと離れたいぜ。

「まぁうちも十分楽しんだし。んじゃ、最後の一暴れといこうか」
「おう。どっちと先に勝負したい?」
「えぇよ。二人同時にかかってきんしゃい」

 言ってくれるぜ、このヤロウ……。
 俺たちのマジ攻撃を同時に受けるだと?
 上等だ、やってもらおうじゃないか。
 迅も同じ考えらしく、俺たちはアイコンタクトを互いに送って武器を構え直した。

「「いくぞ、月!」」
「きんしゃい」
 前傾姿勢になって叫ぶ俺たちに、月はくすりと笑ってそう言った。
 月の安い挑発に全力で乗った俺と迅。
 俺たちは月に向かって全力で走り出す。

 同時に走り出した俺たちだが、俺はあっという間に迅に置き去りにされてしまった。
 迅の足の速さは現実じゃあり得ない速さ、世界記録を明らかに上回っている。
 もうマンガやゲームの世界の速さだ。
 ステータスの振り方の関係で、俺はどうがんばっても足じゃ迅に勝てない。
 これは下手に遠距離攻撃を仕掛けるより、迅の出方を見させてもらうか。




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