第39話 刀の間違った使い方 progress by MIKI
迅は数メートルの幅で横飛びをしながら徐々に月に近づいていく。
対する月は迅の動きを見て自分から仕掛けるのを諦めたらしい。
抜いていた刀を鞘に戻し、居合いの構えでその場に立ち止まった。
左右左右……、何度も左右に振って月を惑わす迅。
そろそろかという考えが俺の頭をよぎったころ、迅は右に飛び、左に飛ぶことなくそのまま月に向かって飛び出した。
迅と月の距離は10メートル弱。迅の足なら月が反応する前に攻撃できる距離だ。
「食らえ、月!」
両手のダガーを腰より下に構え、猛然とダッシュする迅。
さすがに月の反応は早く、向かってくる迅に対して月は居合いを放った。
月の刀が胸の辺りに直撃する直前、迅は
「疾風陽炎!!」
と叫び、スキルを発動させた。
超高速のバックステップで月の居合いを避けた迅。
刀を振りきり無防備な月に向かって、迅はここぞとばかりに腕を交差させて斬り掛った。
けど、
「甘いよ。この程度じゃ負けへん」
月は右手の鞘をダガーの間に入れることで迅の攻撃を止めた。
「今度はうちの番やね」
月は迅に背を向けたかと思うと、まるで馬の後ろ蹴りのように迅を蹴り飛ばした。
蹴り上げられて宙を漂う迅。
月は空中で身動きのとれない迅に追い撃ちをかけるべく、刀を構えて迅を見上げた。
「迅、行くよん」
月は鞘を足場に高く飛び上がり、迅よりも上に出た。
迅は何とか体勢を整え、わざわざ正面に入ってきた月の攻撃に備えたようだ。
「っとに、なんつう蹴りを……」
「しゃべってると舌噛むで」
月はそう言いながら大振りに刀を振り下ろした。
けど迅も実力者だ。
正面からの月の攻撃は当然受け止めた。
「わざわざ飛び上がったのは失敗だったな」
「あ、下には気をつけてね」
「はっ?……ゴフッ!」
あぁ、ありゃ迅のやつ死んだな。
一応順を追って状況を説明していくか。
月は飛び上がる時に使った鞘を、地面に立てたまま残しておいたんだ。
そして迅の両手と注意を自分に向けさせた。
真下に鞘が立っていることに気がつかなかった迅は、背中から鞘の上に落ちた。
あれも月の武器の片割れ、手から離れても威力は抜群だ。
当然迅は終りだろう。
けど、今の月は刀を迅に封じられ、鞘は迅の体の下。
つまり無防備だ。
この隙を狙わない理由はない。
俺は月が体勢を整える前に攻撃を仕掛けた。
「くたばれ月!」
俺は月の着地のタイミングにあわせて剣を振り下ろした。
だが月は刃に触れないように剣を摘み、俺の攻撃を静止させる。
「ダメやん、リー。刀が無くたって防げるんやからちゃんと隙を狙わんと」
あ、いや、一応着地の隙を狙ったんだけど……。
月は俺の剣から手を離し、迅の体の下から鞘を拾いあげた。
一度途切れた攻撃を続ける気にもなれず、俺は月が鞘を拾いあげるのをただ見ていることしかできなかった。
「んじゃ続けよっか」
「おう。お前のその鼻、今日こそへし折ってやるぜ」
対峙した俺たちは、後退することなく互いに斬り掛った。
何度も剣を重ね、何度も弾き合う俺と月。
そんな中、俺は起死回生をかけて目を閉じた。
「む……」
顔は見えないが、声で月が戸惑っているのがわかる。
「白牙!!」
力一杯目を閉じて俺はスキルを発動した。
刹那、俺の剣が眩く光輝く。
剣の放った一瞬の閃光がひいたのを感じて俺は目をあけた。
月のやつが目をやられている隙に勝負をつけてやる。
俺は剣を振り上げ、力一杯振り下ろした。
ガギッ!!
(……ん?)
月の視界は潰したし、声も出してないから読まれることは無いはずなのに。
月のやつ、俺の攻撃を防ぐために刀を移動させやがった。
一体どうなって……?
俺は気になって月の顔に目を走らせた。
「手の内は知られてるんやからもう少し捻らんと」
そう口にする月の顔には黒いレンズ、いわゆるサングラスが輝いていた。
俺が目を閉じている隙に装備しやがったか。
今どきサングラスを本来の用途で使うやつなんて見ねェって。
何やっちゃってんだ、このやろう。
「食らえ、連牙!!」
ガガガガガッ……!!
焦ったな。
上下左右、いろんな方向から仕掛けたが全部防がれちまった。
落ち着け、落ち着いて月の動きを見るんだ。
月と言えど隙は必ずある。
隙をついて一撃、急所に一撃叩き込めば勝てるんだ。
焦る必要は……。
「今度はうちの番やね。いくで、リー」
そういうと月は左手の刀を水平に振り、俺の胸の辺りを狙ってきた。
俺はとっさにバックステップで後退し、紙一重で月の刀を避ける。
「まだいくよん」
今度は斜めに斬り下ろす月。
俺はさらにバックステップを続けて月の刀を避けた。
「なろ……」
やられっぱなしでいられるか。
そうして俺が反撃に移ろうとした直後、ニヤリと笑みをこぼして月が動いた。
「隙あり!」
月は俺が反撃するときの隙を狙ってさらに追い撃ちを計った。
槍のように突き出された鞘は俺のみぞおちに直撃。
俺は鞘の衝撃で数メートル後方に吹き飛んだ。
着地することもままならず、受け身もとれないまま俺は転がった。
「ってェ……」
くそっ、なんて突きだ。
体力のほとんどを持っていかれちまった。
これじゃ次はかすってもアウトになっちまう。
「まだ生きてんね。次は仕留めんよ」
刀を鞘に納めながら次の攻撃に向けて構える月。
どうせ次の攻撃を食らったら俺の負けだ。
勝つには月の急所に一撃叩き込むか、連牙を全発当てるしかない。
月を相手にどっちが可能性があるかっつうと、急所狙った方が有効だろうな。
つう訳でスキルの使用は無しだ。
月のあの構えから見て、月は居合いで来るつもりだ。
あいつの攻撃速度を考えると、あいつより先に攻撃するのは無謀だな。
避けてからカウンターを叩き込むのがベストだろう。
「来い、月!」
「あいよ」
月はそう言うと予想外な行動にでた。
居合いを仕掛けるのではなく、月はその場でゆっくりと刀を抜いたのだ。
つまり居合いじゃなく普通に斬り掛って来るつもりらしい。
居合いじゃなきゃ真っ向勝負も行けるか。
とか考えていると月は再び予想外の行動にでた。
今度は抜いた刀を俺に向かって投げつけてくる月。
なんつう無茶な攻撃だとバカにしていると、刀はまっすぐにこっちを向いて飛んでくる。
刀とナイフは違うぞ、月。
刀は投げられるようにできてないっつうの。
不意をつかれた俺は、危うく直撃するというところでなんとか回避に成功した。
あんな不意打ちでやられてたまるかっつうの。
なにせかすり傷でも死ねるような体力だからな。
あいつの予想外の行動にも気をつけないと。
投げられた刀に触れて死亡なんてゴメンだぜ。
月は今刀を手放している。
あいつの手元にあるのは鞘だけだ。
さぁ、反撃と行きますか。
|