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第40話  イベントの招待状    progress by MIKI



「リー、またうちの勝ちやね」
「くそっ!!」

 結果として俺は月に負けた。
 原因は俺のスタミナ不足だった。
 勝負を決する衝突の最中、俺はスタミナ切れで動きがにぶり、月の攻撃を避けることも止めることもできなくなった。
 その結果、俺は正面から月の攻撃の直撃を受け、月に敗北するかたちで勝負を終えてしまった。

 今、俺は月のいたずらで迅と重ねられ、月のイスとして無様な姿をさらしている。
 復活の手段さえも封じられた敗者に成す術はなく、俺と迅は月のイスを続けるしかないらしい。
 そこへ隼人たちも集まってきて軽い集会が始まった。
 お前等、集会もいいけど先に俺を復活させろよ。



「しゃあないね。アミちんに免じて退いたげるよ」
「おぉ、そうしてくれ」

 結局集会が始まってから10分も俺の上に座り続けていた月は、亜美に説得されてようやく腰を上げる決心をした。
 月はその重たい腰を上げ、ゆっくりと立ち上がる。
 月が離れたことでようやく病院に飛べるようになった俺たち。
 ナイスだ亜美、よくぞ助けてくれた。


 だが、予想外の出来事はすぐに俺の身に襲いかかった。
「病院行ってくる」と言い残し、俺が病院に飛ぼうとしたその時。

「はうっ……」
 突然何者かが俺の上に現れた。
 ログインした直後に人の背中を踏むなんて、やるなコイツ。
 一体どこのどいつだ。

 体力切れで動けないせいで、上のコイツを落とす手段が俺にはない。
 俺が「退いてくれ」と言おうとした時、俺より先に月が口を開いた。
「あれま、マコすけやん」
「これはこれは。お久しぶりです、月さん。それに皆さんも。……皆さん、縮みました?」
 俺の上と横で会話する二人。
 とりあえず会話は降りてからにしてくれないかなぁ。

「珍しくミキさんがいないんですね」
「いんにゃ居るよ。マコすけの足下に」
「へっ……?あっ、わっ、ごめんなさ……」

 足下に俺たちがいることに気がつき焦って降りようとしたためか、彼女は足を滑らせ俺たちの目の前に尻餅をついた。
 「いたた……」と尻をさする彼女は突然気がついたように開いていた足を閉じ、ミニスカートを手で押さえて俺の顔を見た。

「……見ました?」
 唐突にそう口にする彼女。
「何も見てねェよ。なぁ迅?」
「あぁ。可愛らしいグレーのパンツなんて見えなかったな」
 俺の振りに期待通りに応える迅。
「見てるじゃないですか」

「てかこんなとこで油売ってて良いん?用があるから出てきたんとちゃうん?」
「あ、はい。今日は皆さんに用がありまして」

 月に聞かれた彼女はそう答えながら立ち上がった。

 うちの女子メンバーの誰よりも小柄で、一見非力そうな彼女の名前はマコ。
 実はマナの運営チームの一人で、主にプレイヤー担当の業務を受け持っている。
 マコっちが俺たちの前に現れるのは重要な連絡があるときか、プレイヤー間のいざこざに収集がつかなくなったときだ。
 もしかして俺たちが街中でバトルなんかしたから止めに来たのか?

「悪いなマコっち、他人には迷惑かけてないからさ」
 俺はマコっちの任務を予想して、怒られる前に謝った。
 だがマコっちはクスッと笑い、頭を横に振りながら言った。
「違いますよ、ミキさん。今日は皆さんに招待状を持って来たんです」
「「招待状?」」
 何人かが口を揃えて聞き返すと、マコっちはラブレター的に包まれた一通の手紙を取り出した。
 マコっちは一目俺を見ると、月に手紙を手渡した。
 倒れてる俺じゃ受け取れないからな。

 封筒から中身を取り出し、内容を確認する月。
「ユニオン対抗、クリスタル争奪サバイバルバトル……?」
「はい、再来週の日曜日に開催するイベントです。各ユニオンから3名参加していただいて、サバイバルゲームをしていただきます」
 説明を受ける中で、月は封筒から3枚の招待状を取り出した。
 葉書サイズのしっかりしたカードみたいだ。
「これと交換して入場するわけやね」
「はい。代表者3名は招待状を持って集合時間に集合場所に集まって下さい」

「マコっち、なんか賞品とかは出るのか?」
 マコっちが一通りの説明を終えたところで、俺はマコっちに尋ねた。
 過去のイベントじゃ現金やなんかしらの賞品が出てるからな。
 イベントを楽しむにしてもそこは重要だ。
「はい。物はまだ秘密なのですが、一応賞品は用意してます」
 オッケー、賞品が出るなら参加しないわけにはいかないな。
 物がなんであろうと、賞品は俺たちのもんだ。


 その後しばらくしてマコっちは別の参加予定者に会うために俺たちから離れ、迅と眼も早々にユニの脱退手続きのために俺たちから離れた。
 俺たちもサバイバル参加メンバーを決めるのは後日ということにして今日のところは解散することにした。
 次々とログアウトしていく中で、俺は最後まで残っていたくろに話しかけた。

「くろってあんな戦い方も出来るんだな」
「うん。でもやっぱりいつもの戦い方の方が楽かな。怒るのは性にあってないみたい」

 普段のくろはカウンターパンチャー、くろの攻撃は全て相手の攻撃を受け流すことからはじまる。
 そのためくろは瞬発力はあるものの、攻撃速度や威力は今一つなんだ。
 つまり攻撃的なスタイルには適していないわけだけど、くろはそんなことお構いなしに戦って勝っちまった。

 月だけじゃない。
 くろもうちが抱える化け物ってわけだ。
 なんで俺はこいつらの上に立ってるんだろう……。
 俺以上に活躍できない主人公なんて、どこの世界を探してもいないだろうな……。

「どうしたの、ミキ?」
「へ?」
 突然のくろからの問いかけに、俺はわけも分からず聞き返した。
「なんか悩んでるみたいだったから」
「あぁ……、気のせいだよ」
 俺はポーカーフェイスってわけじゃないけど、くろにはバレバレなんだな。
 そのくせ悩みの種が自分だってことは感ずかないんだから素敵だ。

「じゃ私も帰るよ。またね、ミキ」
「おう、またな」
 くろは挨拶を済ませるとその場から一瞬にして姿を消した。
 俺もくろを追うようにして現実世界に戻った。



「遅い!なにしてたのよ」

 センターの受付前で待っていた亜美は、俺の顔を見るなり、膨れた顔で問掛けてきた。

「なにもしてねェよ。そんなに差はなかっただろ。つうか何怒ってんだ?」
「うるさい。見たいテレビがあるの。早く帰るわよ」

 なんか知らんけど怒ってらっしゃるよ、こちらさん。
 俺なにかしたかな……?




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