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第41話  ミキは男です    progress by MIKI



「っつうわけで来週の日曜日は球技大会だ。優勝したクラスには二泊三日の課外授業と、打ち上げの費用が全額支給される。野郎ども、課外授業というリゾート旅行に行きたいかー!?」
 完全に男口調の女教師の問いかけに、クラス中から歓声があがる。

 女教師の正体は俺のクラスの担任教師。
 今は週一回あるホームルームの時間だ。

 次の日曜は球技大会か。
 優勝の賞品がクラス全員の旅行権てのは豪華な話だ。
 もっとも、二位以下の待遇は悲惨なものになるだろうけど。
 去年の賞品は確か、図書券千円分をクラス全員で分けろって、図書券一枚だけもらったな。
 二位だったのに。

 うちのクラスの連中が燃えてる理由の一つはそこにある。
 このクラスは去年二位、三位のクラスだったやつが明らかに多い。
 つまり一位とのギャップを痛感した連中ばかりってわけだ。
 かくいう俺もその一人。
 今年はタダで旅行に行きたいな。

「さっそく種目ごとに参加者を決めなきゃね。いいかお前ら。個人の能力、チームワーク、両方が満足にいく人選しろよ」

 あの人が担任だと学級委員必要ねェな。
 全部自分で仕切っちまう先生、暑苦しいけど見てて楽しい。
 それに女な分、暑苦しさも緩和されるし。
 なんか新任の先生だって話しだけど、あんな性格で先生って勤まるのかね。



 人選のために徐々に教室が騒がしくなる。
 そんな中、左のひじをついてアゴを乗せながら先生を眺めていると、
「ねぇ、ミキは何に出たいの?」
「俺か?そうだなぁ……」
 俺は一度視線を亜美に移し、すぐに黒板に移した。

 黒板には学級委員を使って先生が書かせた、球技大会の種目の一覧と参加可能人数がならんでいる。
 サッカーにバスケ、卓球、テニス、バレー、ドッジボール、どれもオーソドックスなものばかりだ。
 一番端に書かれてる「謎球」ってのが気になるところだが、ここは無難にサッカー辺りに参加しとくかな。
 そのことを亜美に伝えようと口を開きかけたとき、
「このクラスで一番運動できるのは誰?」
 先生が教壇からクラス全員に話しかけた。
 その問いかけに対して、
「誰って多分ミキだろ?」
「ミキは苦手なもんとか無さそうだし」
 次々と答えるクラスメートたち。

 みんなの答えに疑問を抱いた先生は、不思議そうな顔で口を開く。
「ミキって……。何、このクラスで一番運動能力が高いのは女の子なわけ?」
 そのくだりはもう飽きた。
 生まれてから今日まで何度同じことを言われたことか。
「先生、ミキは男です。ほら、真ん中でひじついてるやつ」

 先生は隣に立つ学級委員に言われ座席表に目をやった。
「なるほど。出席番号7番、カグラミキね」
 名前を呼ばれて前を見ると、先生も俺に顔を向けていた。
 偶然目が合い何事かと思っていると、
「あなたは「謎球」に強制参加ね。言っとくけど拒否権は無いから」
「はぁ……」

 なんか知らんけど俺の参加競技は、俺の意思をお構いなしに決まってしまった。
 まぁ、謎球ってのも気になるから文句はないけど。
 問題はパートナーだな。
 黒板を見る限りじゃ、謎球の定員は二人。
 先生は
「アタシがなんとかするから気にすんな」
 って言ってたけど、俺と仲の良いやつはほとんど決まっちまってる。
 チームワークが必要な競技なら、仲の良いやつと組むべきのような気もするんだが。


 俺の競技が決まった直後に授業時間が終わり、
 校内のスピーカーからホームルームの終わりを告げるチャイムが鳴り響いた。
 先生は
「後はあんたたちで勝手に決めといて。ただし、優勝を狙える人選しなさいよ。ルールは去年と同じらしいから」
 と、どことなく人差し指で指差しながら言うと、鼻唄まじりに教室を出ていった。


 その後の休み時間で全員の参加競技が決まった。
 隼人はバスケ、亜美と由紀はテニスらしい。
 ちなみに全定員を合わせるとクラスの人数より多いため、
 余ってる部分も全員の得意不得意を考えて適当に決めたらしい。



 実は今が昼休みなわけで、俺たちは昼休みを利用して昼飯を食べるために屋上に来ていた。
 目の前じゃ先に飯を食べ終えた連中がバスケをしてる。
 バスケコートから少し離れての昼飯だ。

「体が痛てェ……」
 コート脇に腰を下ろしながら俺は呟いた。
「筋肉痛?」
 俺より若干遅れて腰を下ろしながら隼人が言う。
「と打撲。みぞおちが痛てェ」
 昨日は動き過ぎたからなぁ。
 最後の対月戦が余計だった。
 みぞおちの打撲もどきも月の攻撃を食らったせいだし。

「あ。ミキ、ボールが……」
「ん……?」
 隼人の言葉を理解するのに若干の時差があった。
 そのせいで反応が遅れ、隼人に言われた直後、俺は後頭部にボールの直撃を受けた。
 ボールはバスケットボール、俺はその重さに押されて手に持っていた弁当を見事にひっくり返した。

「………」(誰だ、こっちに飛ばしやがったヤツは……)
「………」(うわっ悲惨……)
 沸々と沸き上がる怒りに体を震わせる俺と、唖然とする隼人。
 俺の昼飯全部こぼれたぞ。
 今日は昼飯抜きになっちまうじゃねェか。

 床に無惨に散った弁当を哀愁を含んだ目で眺め、諦め切れない気持ちで振り返る。
 すると10メートルほど先で手を挙げて、俺に合図を送っているヤツがいた。

「よう、悪ぃな」
 そう言いながら近づいて来るお兄さん。

 こいつの名前は赤井 真人(あかい まさと)。
 赤みがかった茶の短髪と、左耳のピアスが特長だ。
 身長は俺とほぼ同じで、俺より遥かにがたいが良い。
 頭は留年しそうなくらいヤバい。
 サボり癖があってバイトはクビになったらしいし、去年は出席日数ギリギリで進級してる。
 いわゆる○○なヤツだ。


 目の前まで近づいて来た赤井の顔は、どこか笑いを含んでいる気がする。
 その嫌味な笑顔を見た直後、俺はこいつがなにをしたのかを瞬時に理解した。

「赤井、てめェやりやがったな」
「おう、悪ぃな神楽。手が滑っちまってよ」

 明らかに笑っている赤井の顔が、赤井の言葉が嘘であることを物語っている。
 俺にボールをぶつけたのは赤井で間違いないだろう。
 他の誰かって可能性はあるが、赤井が絡んでいるのは確かだ。
 妥当に考えれば「手が滑った」ってのが嘘だ。
 わざとぶつけやがったな。

「俺の弁当に何しやがる」
「代わりにこれやるよ」
 そういって赤井はポケットから取り出した物を、俺の目の前に放り投げた。
 それは売店に置いてある10円の駄菓子。

 このやろう、明らかにケンカ売ってやがる。
 いいぜ赤井。そのケンカ買ってやるよ。
 食い物の恨みは怖いってことを教えてやる。

「俺の身の平和のために、今ここで死にさらせ!」

 その後、俺と赤井は乱闘騒ぎを起こし、騒ぎを聞き付けた生活指導の先生にこってりしぼられた。




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