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第47話  「F」の称号    progress by YUKI



 隼人くんの頑張りでアタシたちのペアも無事に準決勝までコマを進めることができた。
 唯一の問題はアタシがあまりに何もできていないこと。
 前衛のときも後衛のときも、隼人くんはアタシの足りない分をカバーするために常に全力で走り回ってる。
 いくら隼人くんでもあんなに走り回ったら体が持たないよ……。

 アタシがもう少しまともに動ければ……。
 興味本位でテニスを選んだのは失敗だったなァ。

「ユキー」

 後悔と若干の反省にひたっていると、どこからかアタシの名前を呼ぶ声が聞こえてきた。
 聞き覚えのある声からも声の主は明確で、アタシはすぐに声の主を捜し出した。

「アミ。もう試合は終わったの?」
「うん。そっちは?」
「こっちも午前中の試合は終わったよ」
「そ。ハヤトくんだけが疲労困憊な顔をしてるのは聴かない方がいい?」
 亜美の視線の先には立ち続ける気力も残っていない隼人くんが燃え尽きている。
 あの隼人くんとアタシを見れば誰でも状況を把握できるよ。
「そういうわけだから無言で状況を把握して」
「わかった。後でハヤトくんに謝っておきなよ?」
「うん。死ぬほど謝るよ」


 まぁ何はともあれ、これでサッカー、バレー、テニス、バドミントンはベスト4入りを果たしたわけだね。
 まだ誰も敗退してないなんて、やるじゃんうちのクラス。
 さすが、「F」の称号を掲げてるだけのことはあるね。

 後はドッジボールとバスケだけど、ミッキーと赤井くんが参加してるし。
 両方とも準決進出は確実だね。



最強のクラス
    progress by MIKI


 なんだあっけねェな。
 ピンチだっていうから助けに出てやったのに、ピンチだったのはあの一戦だけかよ。
 あれから全試合参加したけど、俺の出番なんてほとんどなかった。
 こんなことなら隼人たちの試合でも見てりゃよかったな。

「……おつかれ、ミキ」
「おうハヤト。……ずいぶんしんどそうだな。大丈夫か?」
「なんとかね。準決勝以降が午後だったのがせめてもの救いかな」
 確かに。
 隼人、お前今試合なんかしたらぶっ倒れそうな顔してるよ。
 まぁ昼休みはしっかり休んでくれ。

 さて、校庭の競技は全試合終わったみたいだな。
「戻ろうぜ」
「うん」
 隼人はふらつきながら重そうに腰を上げる。
 マジで限界を向かえてるらしいな。
 由紀のヤツ、どんだけ隼人を働かせたんだ……?
 隼人はそんなやわなヤツじゃないのに。

 隼人を疲れさせた張本人はテニスのコート際で亜美と2人、なにやら立ち話の真っ最中だ。
 二人に気がつき声をかけようとしたとき、偶然こっちに視線をずらした由紀と目があった。
 なんの会話の流れか、由紀が亜美の肩を数回、小刻みに叩いた。
 俺はその由紀の行動とかぶるタイミングで2人に声をかけた。

「アミ、ユキ。お前ら昼飯はどうする?」
 俺の問いかけに対して、由紀は亜美の様子をうかがうように亜美に視線を移す。
 亜美は俺に背を向けた状態から振り返り、俺の顔を見ると、なにやら目付きを鋭くして睨んできた。
「知らない。私たちは屋上に行ってから教室に戻るから」
 知らないって……、なに怒ってんだ……?
 ホント、毎度毎度コロコロと機嫌が変わるヤツだな。
 情緒不安定だぞ、亜美のヤツ大丈夫か?

 結局亜美と由紀は2人で先に校舎に向かって歩き始め、教室へ向かう廊下をそれて屋上に向かっていった。
 俺と隼人は二人が廊下をそれるまで、まるでストーカーのように二人の後を追って歩いた。
 二人がそれたところでようやく重苦し雰囲気に別れをつげ、俺は隼人に話し掛けた。

「アミのヤツ、いったいなんなんだろうな。いつものことだけどわけが分からねェよ」
 せめて怒ってる理由だけでもわからないとどうしようもないっつうの。
 これじゃ怒られ損だぜ。
「アミちゃんに直接聞くのは無理だろうから、ユキちゃんに聞いてみたら?」
「そうだな。あの情緒不安定娘が怒ってる理由だけでも聞いてみるか」
 ホント、めんどくさいヤツ。
 まぁ機嫌がそのまま態度に現われるだけ分かりやすいか。
「屋上行ってみる?」
「いや、まずは飯にしよう。腹減ったしお前もクタクタだろ」
「そうだね。正直立ってるのも辛いんだ……」
 おいおい、大丈夫かよ……。
 そのうちマジでぶっ倒れんじゃないか?
 そんなことになったら洒落になんねェぞ……。



 ぶっ倒れそうな隼人に肩を貸しながら教室に戻ると、教室にはなにやらにぎやかな空間が出来上がっていた。
 前方の黒板の前にたかり、ワイワイガヤガヤと沸き立つ室内。
 教室に近づいた瞬間としては、「なんや」っちゅう気持ちにしかならんかった。
 そして俺たちが教室に入ってきたことに誰も気付きやしない。
 俺は疲れ切った隼人を近くのイスに座らせ、単身奴らの本拠地に乗り込むことにした。

 1人また1人と掻き分けて進んでいくと、黒板に各競技のトーナメント表が張り出されているのに気付いた。
 どうやらみんな、午前中の成績をたたえあい、準決勝以降の対戦相手について語り合っているらしい。

「お、ミキ。戻ってたんだ」
 ようやく俺の存在が一人の男子生徒に認識され、そいつの言葉で俺の存在はこの大群に認識されることになった。
「おつかれさん。午前中の戦績はどうだったんだ?」
「全種目準決勝進出決定。今のところは順調だよ。最も、きついのはここからだけどな」

 この言葉には単純に「準決勝以降は強敵が多い」って意味もあるんだろう。
 けど、この学校の特殊な環境下では別の意味が強くなる。

「やっぱ残ってるのか?」
 俺はその別の意味の存在を確かめるため、たった一言の質問を口にした。
「あぁ。全種目で勝ち上がってきてる。去年より強そうだったな」
「そりゃ残念だ。結局連中に死角はねェか」

 うちの学校にはアルファベットの称号ってもんがある。
 各クラスについているアルファベットがそれだ。
 これは各クラスの特徴を現していて、例えば「A」の称号は座学成績優良クラスに与えられるらしい。
 各生徒は前年度の振る舞いからクラス編成時に適当なクラスに振り分けられるわけだ。

 中でも「F」の称号は特殊で、一説によれば問題児クラス、別の説によれば校長のお気に入りクラスと、若干おかしな特徴づけをされている。
 で、球技大会なんかで勝ち上がってくるのは大抵「F」の称号を持つクラスなんだ。

 二回のクラス編成を経て結成されている3Fってのは言うまでもなく最強。
 俺たち2Fにとって最大の壁になる。

 けど、称号なんかにビビってる場合じゃない。
 勝たなきゃ旅行は無しだ。
 負けるわけにはいかねェよ。




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