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第48話  ヒトメボレ    progress by MIKI



 サッカーもテニスもバスケも、すべての準決勝と決勝は午後。
 だがその前にこの球技大会最大の謎、謎球って競技が待っている。
 各クラス参加者は三名、集合場所は校庭、集合時間は一時。
 今のところわかっているのはそれだけだ。
 うちのクラスに限っては三人目のメンバーすらわからない。

 マジで謎に包まれた競技だな……。

 その上二人目は赤井だ。
 俺と赤井を組ませた時点でうちのクラスは勝負を捨ててる。
 どんな競技かわからない以上、チームプレーを想定して連携のとれるメンバーを選択するのが筋だろ。
 俺と赤井のペアにそんな高等スキルは備わっちゃいない。
 個人プレーでどうにかなる競技であることを祈るしかないぞ、みんな。


 弁当を食い終えてしばらく経った頃、俺は隼人と向かい合い、ぐったりとしながら他愛のない話しでまったりとしていた。
 そんななか話しの切れ間を見計らって、隼人がおもむろに口を開いた。

「ミキ、そろそろ行く?」
「……校庭にか?いくらなんでも早すぎるだろ。まだ30分はあるんだぞ」
「違うよ。アミちゃんが怒ってた理由を探りに行くんでしょ?」
 あぁ、そういやそんな話しもしてたな。
 隼人が呆れた顔で俺を見てる。
「友達を怒らせた理由が気にならないの?」って顔だな。
「……仕方ねェ。屋上に行ってみっか」
「うん」

 俺たちは座り疲れた体を慣らし、屋上へと進路をとった。



 去年もそうだったけど、屋上の屋台はどうしてこうも気合いが入ってんだろう。
 この学校の不思議なところの一つだ。
 優勝賞品といい、この屋台といい、金の使い方が尋常じゃねェ。
 いったいどっからそんな金を集めてくんのかさえ謎だ。
 学費は普通に公立の額だから、俺たちに集ってるわけでもないし。

 と、今目を向けるべきは屋台じゃねェ。
 亜美と由紀を探さにゃ。
 ……とは言っても見当たらねェな。

「ハヤト、二人が見当たらねェな」
「だねェ……。行き違いになっちゃったかなァ」

 屋上のどこを探しても亜美たちの姿は見つからない。
 にぎわった屋上だけど、いるなら見つからないこともないだろ。
 見つからないってことは、隼人の言うように行き違いにでもなったかな。


 でもよ、よく考えたら俺が亜美に気をつかわなきゃならない理由も無いな。
 確かに気にはなるけど、そうまでして亜美の機嫌をとる必要なんて無い。

「つうわけでハヤト、2人を探すのはやめよう」
「えっ?なんで?」
「二度も説明するのはめんどくさい」
 隼人には人の心を読み取るスキルは無かったか。
 最近心を読むのが流行みたいだから軽く期待しちまった。


 俺たちは亜美たちの捜索をあきらめ、財布を片手に屋台巡りに繰り出した。
 昼飯はしっかり食ったけど、こういうのは別腹だ。

 屋上のあちこちから飛び交う屋台主の声。
 どの屋台も客を呼び込もうと必死に声を出してるみたいだ。
 密集した屋台から途切れることなく飛び出す呼び声は、寸分の狂いもなく俺のテンションを高めていく。

 焼きそばにたこ焼き、クレープにチョコバナナ。
 どいつもこいつも、俺の財布に甘い誘惑をかけてきやがる。
 俺と隼人は自分の財布と相談しながら、最優先に買うべきものを探し歩いていた。

 そんな時、俺は脳に唐突な衝撃を受け、その場で足を止めた。
「ミキ?」
 俺が突然足を止めたのは円卓が並ぶ休憩所の目の前。
 そこに屋台などはなく、隼人には当然、俺が足を止めた理由は分からないだろう。
「聞いてくれハヤト。俺は今、この人生で初の体験をしちまった……」
「なに?漏らしたの……?」
「ちゃうわ、アホか」
 なんでこんな唐突に漏らさなあかんねん。

 俺の初体験の感想はこうだ。

「一目惚れってマジであるんだな」

 ここからは微妙に離れたポップコーンの屋台で、2つのカップを受け取っている赤いジャージの女の子。
 あのジャージは3年生か。
 長めの茶髪を結った髪型で、かすかにうなじが見え隠れする辺りが俺の感帯を刺激する。
 背は亜美と同じくらいかな。
 高過ぎず低すぎずでいいかんじだ。
 何より可愛い。

「なぁハヤト。告白ってどのタイミングでしたらいいのかな……?」
「そんなの、わかったら苦労してないよ」
「そらそうだわなァ」

 確かに分かるわけないよな。
 由紀に告白できずにいる隼人だもの。

 まぁ、今の俺の段階じゃ早すぎるのはわかってる。
 それより、まずはどうやって近づくかだ。

「あ、誰か来たよ」
 どう話し掛けたもんかと悩んでいると、隼人がそう口にした。
 見ると彼女に近づくのは赤いジャージの女の子。
 きっとクラスメイト的な人だろう。
「ちょっと待て。あの子もヤバいだろ」
「確かに。あの人も可愛いね」
 可愛いなんてもんじゃない。
 2人揃って、顔もスタイルもモデルや芸能人なんか目じゃないスペックだ。

 なんて日なんだ、今日は。
 同じ日の同じタイミングで2人に一目惚れしちまうとは……。

「どうしたらいい、ハヤト」
「聞かないでよ……。とりあえず告白より前に仲良くなることだね」
「あぁ。いやしかし困ったなぁ……」
 どうやって接触したらいいんだ?
 そういうナンパ的なスキルは持ち合わせて無いからなァ。


「あぁ、行っちゃったね」
「うっせェな……。意気地なしとでも言いたいのか……?」
 俺は落ち込みのあまり、腰を落としてその場にしゃがみ込んだ。
「別にそんなつもりはないよ」
「さいですか……」

 まぁ、俺と隼人の会話から大体予想はつくだろう。
 どうやって話し掛けようか。
 そんなことを考えながら、離れたところで彼女たちを見つめていた俺。
 2、30分もすると昼休みも終わりに近づき、彼女たちは円卓から腰をあげて校舎内に消えていった。

 結局俺は彼女たちに話し掛けることすらできなかったわけだ。
 この根性無しの醜態。
 笑いたいだけ笑ってくれ……。

「ミキ、そろそろ校庭に行かないと。みんな集まり始めてるよ」
 フェンスに手をつき、屋上から校庭を見下ろしながら隼人は言う。
 きっと隼人の目には、校門前に集まる60人もの参加者の姿が写っているんだろう。
「ミキ、遅刻になっちゃうよ……?」
「……わァったよ。行くよ、行きゃいいんだろ……?」
「テンション低いね」
 当たり前だろ……?
 つい今さっき、自分の不様な姿を目の当たりにしたばっかなんだぜ……?
 そりゃテンションも下がるわい。

「よっし、行くか」
 俺は顔を数回叩き、気合いを入れて立ち上がった。
「うん。赤井くんも集合してたみたいだよ」
 あぁ、そういや赤井と組んでたんだったな。
 こりゃ午後の一発目から気合い入るな。
 チーム(他のクラス)対個人(うちのクラス)の異種格闘技ってことだ。

 どっからでもかかって来やがれ。
 誰だろうと叩きのめしてやるよ。




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