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第52話  チームワークと身体能力    progress by HAYATO



『さぁ、残るチームはあと5組。競技もいよいよ終盤戦に差し掛かります』
 競技が始まってすでに一時間が経とうとしている。
 一時間もの時間をほとんどノンストップで実況を続ける生徒会の女の子に、俺は感心していた。
 実況のうまさ、それに画面の演出のうまさに、一時間経った今でも観戦に飽きている人はいない。
 もっとも、飽きないのはうちのクラスの参加者が活発だからかも知れないけどね。

『現在、参加資格のあるクラスは1B、2F、2G、3D、3F。はたして優勝はどのクラスになるのでしょう?』

 全クラスのうち、すでに16ものクラスが姿を消した。
 その半数以上が3つのクラスによって消されている。
 1B、2F、3Fがそれぞれ3、7、4クラスを蹴散らしてきたんだ。

 1Bはとにかくチームワークが良い。
 三人の連携でうまく相手の隙をついてくる。
 このチームの柔軟なチームプレーはうちの三人には脅威になると思う。

 うちのクラスは三人とも単独で相手を潰している。
 未来が2、赤井くんが2、そして先生が3だ。
 このチームにチームプレーは無い。
 ただ個人個人が強いだけ。
 それでこのチームプレー主体の競技を勝ち進んでるんだから、彼らには呆れるよ。

 この一時間の動きを見たかぎり、一番優勝に近いのは3Fだ。
 人員構成が男子1、女子2だから甘く見てたけどとんでもない。
 厄介なのはむしろ二人の女子の方だ。
 連携は間違いなくうち以上、その上運動能力も同等かそれ以上。
 しかも未来にとっては最悪の相手だ。

『さぁ、終盤のこのタイミングで遭遇したのは2Gと3F。はたして軍配はどちらに……』

 テレビからの実況音に素早く反応する最前列の男子生徒。
 対戦中のクラスのチャンネルに素早くテレビを合わせた。

 3対3で対峙する二つのクラス。
 両クラスとも最大数のボールを抱え、ターゲットをかばうような三角の陣形で睨み合っている。
 闇雲に投げればボールを失うだけ、1人で飛び出せばチームに隙が出来る。
 互いに探りあう難しい駆け引きの時間だ。

 この沈黙を破って先に動いたのは3Fだった。
 茶髪で長身の女の子が単身飛び出し、迷うことなく相手ディフェンダー二人に向かってボールを投げた。

「直線的過ぎるな」
 クラスの誰かがそう口にした。
 俺も含め、この映像を見た連中のほとんどが同じことを思っただろう。
 だが、3Fの三人はこのボールでディフェンダーを倒す気は無かったらしい。

 2Gのディフェンダーは両手にボールを持っているためキャッチにはまわらず、回避することでボールをやり過ごした。
 その瞬間、間違いなくディフェンダーの注意はそのボールに向いている。
 その隙をついて3Fの残り二人は、動いた直後で動かしづらいディフェンダーの足を狙ってボールを放った。
 同時に3Fのディフェンダー、黒髪の女の子は前衛に出た茶髪の女の子に残りのボールを投げ渡す。

 必死に避けようとした2Gのディフェンダーはバランス崩し転倒。
 しかもボールは足元に直撃しアウトになった。
 そしてがら空きになった2Gのターゲットに茶髪の女の子が迫る。

「食らっとき」
「誰が当たるか!」
 2Gのターゲットは盾を構え、ボールを叩き落としにいった。
 すでに投げられたボールは盾に防がれ、ターゲットに当たることなく地面に落ちた。
 ターゲットの「どや」顔が盾の影から覗いている。

ぱすっ

「えっ!?」
『アウトー!2Gはここで失格です』

 2Gのターゲットも、テレビを見ていた俺たちも、その瞬間何が起こったのかわからなかった。
 ただ審判のコールの後、画面には3Fの黒髪の女の子が映っていた。
 どうやら彼女が隙をついてボールを投げ当てたらしい。

『おっと、ここでまたしても動きが!2Fの赤井くん、いつの間にか3Dのターゲットにボールを当てています。アウトです、3Dはここで失格です』

 実況を聞いてとっさにチャンネルを回すと、赤井くんは悔しがる3Dの男子の横からボールを拾い上げているところだった。
 同時に、画面の右下には悔しがる未来をとらえた映像が映し出されていた。
 今ので赤井くんの倒したチームの数は3、未来に1チーム差をつけたことになる。
 未来が悔しそうなのは多分そのせいだね。

 未来、一応言っておくけど今は喜ぶ場面だよ。



集結のとき    progress by MIKI


 あぁ、くそ……。
 まさか赤井に遅れを取るとは……。
 何たる不覚。人生最大の汚点だぜ。
 なんとかして汚名を返上せにゃ。

 残りのチームはどっちもたくさんのチームを潰してる。
 他のチームを潰すより意味があるはずだ。
 つまりどっちかを潰せば俺の方が上ってことだな。

 ……いや、待てよ。
 赤井を潰せばそれで良いんじゃないか?


「で、そこにいるのはどちらサン?」
 俺は前方に気配を感じ、問い掛けた。
「さすがミキ兄」
 そう言って前方の十字路に姿を現したのは1Bの連中だった。
 うち二人は初見だが一人は見慣れた顔だ。
「ユウタ、お前1Bだったのか」
 ドッジボールで俺が避けられてたのはこいつのせいだな。

「ユウタ、悪いけどお前らはここで終わりだ」
「そうかな?3対1ならこっちに分があると思うよ?」
 そう言って身構えるユウタ。
 つられて残り二人も盾、ボールを構えた。

 刹那、ユウタたちの背後、そして左右の三ヶ所に俺たちとは別の気配を感じた。
 ユウタたちもそれを感じたらしく、俺たち四人は互いに警戒しながら新たな気配に視線を送った。

「あり?ミキもマサトもいる」
 十字路の奥に現れたのは沙耶っちだ。
「よぉ、負け犬。獲物やろうか?」
「うるせ!自分で狩れるわ」
 左からは赤井が出てきた。
 出てきていきなり「負け犬」とは、言ってくれる。
 まだ試合中だっての。
 いくらでも逆転しちゃるわ。

 そして右から出てきたのは3Fの三人。
 しかもディフェンダーの女子二人には見覚えがある。
 そう、ついさっき俺が一目惚れしたばかりの女の子たちだ。

『おぉっと、ここで最大級のイベントが発生!残る3チームが集結してしまいました』
 生徒会のお姉さん、それどころじゃないぜ。
 3Fのメンバーは殺人的だ。
 手が出せねェよ。
『ここで決着がつくのでしょうか!?この謎球もいよいよ大詰めです』

「腕がなるわね」
 気合い十分、盾よりボールが大好きな沙耶っち。
「全員まとめてかかってこい」
 ちょっと勘違い気味の赤井。
「なんか勝てる気がしないよ、ユウタ……」
「びびんな。チャンスはある」
 周囲の気迫に圧され気味の1Bの諸君。
「三つ巴やね。面白そうやわァ」
「そうだね。みんな強そうだなぁ」
 この状況を沙耶っち以上に楽しんでる3F。

 さて、手っ取り早く赤井……じゃなかった。
 ユウタたちを潰しとくか。
 3Fは……眩しすぎて狙えねェ。




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