第44話 緊急事態 progress by MIKI
「それじゃ、行ってくるよ」
「おう、頑張れよ。ユキを助けてアピールしたれ」
校庭に出ると、テニス参加者の集まるテントを発見。
隼人はそこに向かうため、一度振り返り、俺に話し掛けてきた。
隼人と別れた俺は、グラウンドに急きょ設置されたテニスコートに向かって歩いていた。
当然、隼人たちのことを応援するためだ。
コートの周りには既に観客のグループが点々としていた。
そんな中にうちのクラスの集団も出来上がっていたわけで、俺は迷わずそこに合流した。
しばらくすると、隼人たちテニス組が打ち合わせを終えて戻ってきた。
うちのクラスの連中の試合はまだ始まらないらしく、一緒に観戦する形で第一試合が始まった。
試合はコートを2面使っての2試合同時形式。
はじめはシングルスかららしく、隼人・由紀ペアの試合までまだかなりの時間がある。
試合は順調に消化されていき、うちのクラスのシングルスは準決勝進出を決めた。
どの競技も準決勝以降は午後の部の後半に行うらしく、シングルスの準決勝進出者が決まった時点でダブルスの初戦が始まる。
隼人たちは第二試合、つまり第二コートの初戦になる。
試合参加者に召集がかけられ、隼人と由紀は腰を上げた。
「それじゃ、行ってくるよ」
「ハヤト、さっきと全く同じセリフだぞ」
「だってさっきと同じ状況だもの」
まぁ、そりゃそうだ。
俺が隼人に激励の言葉を送っていると、俺は突然、かわいらしい小さな手で目をふさがれた。
明らかに女の子の手であることはわかる。
それに加えて、「だーれだ」という死語的な言葉に聞き覚えのある声を感じた。
手の主の正体はいまさら確認するまでもなかった。
「アミからメール。順調に勝ち進んでるみたいだよ」
「へぇ。頑張ってんだな」
そういや亜美はバドミントンだったな。
どおりで姿が見えないと思ったぜ。
「それだけ?」
「あぁ。そうだな……、頑張れってメールしといてくれよ」
由紀の言葉を俺は「感想だけ?」って意味だと受け取った。
だが、由紀的には違う意味での言葉だったらしく、
「そうじゃなくて、応援には行かないの?」
「アミのバドミントンの腕は確かだからな」
中学のときはバドミントン部に入ってて、確か全国大会で入賞してたはずだ。
つまり中学時代の話しだけど、亜美は全国区の実力を持ってる。
「あいつに応援は必要ないだろ」
「ふーん」
「俺からしたら、アミよりお前らの方が心配だよ。ちゃんと勝ち進めるんだろうな?」
去年の2Fは全競技で優勝しての完全勝利を成し遂げていた。
そのクラスがメンバーをほとんど変えないで、今年も残ってる。
連中が最大の壁になることは確実なんだ。
この球技大会で優勝するには、1つだって勝ち点を減らすわけにはいかない。
去年の優勝クラスに勝つには全競技で入賞せにゃ。
「絶対勝てよ?」
「当然じゃん。ハヤトくんを舐めないでよね?」
「えっ?俺?」
由紀の不意を突いたフリに戸惑う隼人。
「他人任せかい!」ってツッコめないところが隼人の個性だな。
つうか由紀のやつ、自分から隼人をテニスに誘うくらいだから、テニスに自信があるんだろうな。
テニスはサッカー、バスケに並ぶ激戦区。
勝ち進むにはかなり腕が必要だぞ。
「2Fのかたー、早く来ないと失格にしますよー」
コールされてから1、2分経ったところで審判員から催促が入った。
なかなか動こうとしない隼人たちに嫌気がさしたんだろう。
「それじゃ……」
「ハヤト、それ以上言うな」
俺は明らかに3度目を口にしようとした隼人の言葉を途中で遮った。
「頑張ってこいよ、二人とも」
「「うん」」
コートに着くなり、隼人たちは審判に怒られているようだ。
隼人が審判と対戦相手に何度も頭を下げている。
由紀は相変わらずだな。
さて、俺はどうするか。
由紀は亜美にメールを送らないまま行っちまったし。
俺の頑張れコールは亜美には届いてないわけだ。
由紀にも言われたけど、やっぱ顔くらいは出しといたほうが良いよな。
体育館でも競技があるから亜美が一人でいるってことはないと思うけど。
隼人たちの試合も気になるけど、初戦では負けないだろ。
ひとまず亜美の応援にでも行ってみるか。
「お、いたいた。ミキー!」
体育館に向かって足を運びだした刹那、俺は背後から呼び止められた。
振り返ると、そこにはクラスの男子が二人。
なぜ走って来たのかは知らないが、荒い呼吸の合間で途切れ途切れに言葉を発した。
「はぁ…。わ、悪いんだけど…、はぁ…、ドッジボールの助っ人……、頼めないかな……」
両手をひざについて肩で息をしながら、男子生徒の一人が言う。
ドッジボールだってそれなりに精鋭を送り込んでるはずだ。
なんで助っ人が必要なんだ……?
そんな疑問が顔に出てたんだろうか。
もう一人の男子生徒が口を開いた。
「準々決勝であたる相手が異常な強さなんだよ」
呼吸も落ち着いて、スムーズに言葉を伝える男子生徒。
どうやらドッジボールも順調に勝ち進んでいたらしいな。
状況的には、順調に進んでいたところで強敵に出くわしたって感じか。
準々決勝にもなれば強敵に出くわす確率が高くなるのは当然。
問題はそいつらの正体だ。
こいつらがビビるような相手を考えると、俺の頭は1クラスしか思いつかない。
「3Fか……」
3Fは去年の優勝クラスほぼそのもの。
つまり優勝候補ナンバーワンのクラスだ。
連中と準々決勝で当たったとなると、連中を蹴落とすチャンスである反面、差を付けられかねないピンチでもある。
「連中が相手じゃ手伝わないわけにはいかないな」
「いや、それが……相手は3Fじゃないんだ」
「……は?」
俺は一瞬、自分の耳を疑った。
「ヤバい相手ってのは1年でさ」
「1年!?お前ら、1年にビビってんのか?」
ありえねェ。
ついこの前中学を卒業したばかりのガキ相手にビビるなんて。
お前らそれでも2Fかよ。
「仕方ねェだろ。マジでヤバいんだって。俺たちだって1年相手でお前に泣きつきたかねェよ」
なんだ、へっぴり腰なだけじゃないのか。
なら、それでも泣きつきたくなるような1年ってなぁどんな連中なんだ。
ちょっと興味深いな。
「わァった、手伝ってやるよ」
「ホント悪りィな。助かるぜ。優勝めざしてるクラスが、1年なんかに負けるわけにはいかないからよ」
まったくだ。
3F以外のクラスに負けるのだけは絶対に許されない。
なんとしても準決勝にコマを進めにゃ。
俺は二人の男子生徒の後について、ドッジボールのコートに向かって走りだした。
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