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第43話  試合前の休息    progress by MIKI



「テニスは何時からだって?」
「10時半ごろだって。サッカーが終わってから、ドッジボールと並行してみたいだよ」
 開会式も無事に終わり、一度教室に戻ろうと足を進める中で、俺は隼人に話し掛けた。

 俺の参加する謎球は昼飯のあと、午後1時からスタートって話しだ。
 隼人の試合開始までまだ1時間以上ある。
 ひとまず今は暇人ってことになるな。

「どうするよ?サッカーにでも乱入しちゃるか?」
 せっかくの球技大会で暇人になるのは勿体ない気もする。
「でもサッカーは人気競技だよ?みんな代わってくれるかなァ?」
 自分で提案しといてなんだけど、自分でもそう思う。
 ドッジボールよりもバスケよりも、明らかにサッカーは人気がある。
 うちのクラスの精鋭11人が代わってくれるか……って、無理だろうなァ……。

「つまり暇人なんだな、俺ら」
「だね。体育館にでも行ってみる?」
 体育館って確か今はバレーやっつるんだよな。
 バレーはあんま好きじゃないし、応援に行く気にもならんな。
「……パス。俺暇人でいいわ」
「確かにバレーはねェ。じゃあ教室でトランプでもしてる?」
「おう、いいねェ。どうせみんなやってんだろ。混ぜてもらうか」

 俺らみたいな暇人は行くあてもなく、なんやかんやで教室に溜まっていく。
 学校中が祭りの対象じゃ校庭や体育館はもちろん、食堂から屋上まで気の休まる場所はない。
 そんな中で唯一の休息所が教室ってわけだ。
 こんな状態じゃ教室には必然的に人が集まる。
 同じ境遇の連中が集まれば、何らかの手段を見いだす。
 それがたいていトランプってわけだ。

 いつまで経っても手段が変わらないのはアレだけど、とりあえず暇潰しができればそれでいい。

 てわけで俺と隼人は教室に戻り、案の定トランプをやっていた連中に混ざった。



茶髪の3年生    progress by AMI


 私と由紀はグラウンドでの開会式を終えたあと、屋上に設置された出店広場にやってきた。
 たこ焼きや焼きそば、チョコバナナにフランクフルト。
 お祭りで見かけるたいていの屋台がこの場にある。
 この学校はお祭りごとに力を入れてるみたいで、この場にある出店も、みんな業者さんみたいね。

「お待たせしました。ストロベリーアイスとチョコバナナクリームになります」
「どうもー♪」

 由紀はクレープ屋のお姉さんから2人分のクレープを受け取ると、片方を私に手渡した。
 温かい生地と、それに包まれたバナナとクリーム、そして適度にちりばめられたチョコチップとチョコソース。
 こんなに食べたら太っちゃいそうだけど、このあと運動もするわけだし、構わないよね。

「いっただきまーす♪」

 元気よく声をあげてクレープをほおばる由紀。
 そんな由紀を見て、私も一口、二口とクレープを口に運んだ。

(おいし……♪)

 久しぶりの甘さに思わず表情がゆるんだ。
 お祭りって不思議ね。
 普段は太らないようにセーブしてるのに、そんな気持ちはどこかに吹き飛んでしまうもの。
 買い食いするのはこれで止めにしておこ。


「見てみてアミ。うちのクラスが出てるよ」

 屋上のフェンス越しに校庭を見下ろす由紀。
 私は由紀の隣に立ち、由紀と同じように校庭を見下ろした。

 校庭にはサッカーのコートが二面。
 手前側のコートでは確かにうちのクラスが試合をしていた。

「相手はどこのクラスかなァ?」
 由紀は食べおわったクレープの包み紙を丸めながら疑問を口にした。
「分からないわね。ジャージの色で1年生ってことは分かるけど」
 うちの学校は学年ごとにジャージの色が異なる。
 青いジャージは1年生のカラーなのよ。

「ハヤトくんもミッキーもいないね」
「そうね。二人とも助っ人には行かなかったみたいだね」
 屋上にもいないみたいだし、体育館にでも行ってるのかしら。
 サッカーは人気があるから、能力の高い人が集まってるし。
 たぶん誰も代わってくれなかったのね。

「アミは体育館だよね?試合何時から?」
 屋上に設置された4人用の円卓、そのイスに腰掛けたところで由紀が訊いてきた。
 私は今朝校庭の掲示板で見た内容を思い出し、不確かな記憶を頼りに由紀の質問に答えた。
「10時過ぎからだったかなぁ。確かバレーの後だったはずよ」
「アタシもサッカーの後みたいだから同じくらいかなァ。応援は無理そうだね」
 由紀の言うように、確かに応援は無理そうね。
 お互いの競技時間が明らかにかぶってる。

「そろそろ時間ね。行こユキ」
「うん」

 私たちは校舎内へと続く階段を下って校舎へと戻っていった。
 しばらく進むと校庭に続く廊下と体育館に続く廊下の分かれ道にたどり着く。

「じゃあユキ、テニス頑張って」
「うん、アミもね」

 私と由紀は軽くハイタッチをし、それぞれの試合会場に向かって歩きだした。



 私が体育館に着いたのは10時5分前。
 体育館ではまだバレーの試合が続いていた。
 準々決勝にあたる試合らしく、体育館に設置された掲示板には、既に準決勝進出を決めた3クラスのクラス番が張り出されている。
 その中に2Fの文字を見つけた私はとりあえず胸を撫で下ろし、ホッと一息ついて2Fのバレー代表メンバーに近づいた。

「アミ。この後試合でしょ?頑張ってね」
「うん、バレーの方は順調みたいね」
 息も整って汗も引いているみんなを見て、私はそう感じた。
 当然優勝への強い意志があるものだと信じて疑わなかった。
「今まではね。でもこのままだと優勝は厳しいかも……」
「え?」
「あれ見てよ」
 私はその言葉に促され、彼女の指差す方に視線を向けた。

 その指はまだ試合の続いているコートの方を指していた。
 試合は2Bと3Fの準々決勝第四試合。
 準々決勝にもなれば両チームの実力はたいてい互角になっているもの。
 コートを見た直後は、3Fにアグレッシブな人がいるな、くらいにしか見ていなかった。
 私が状況を理解したのは得点板を見たとき。

 そこに示されていたのは1対23という奇妙な数字。
 この試合は25点先取の1セットマッチ。
 つまり3Fは、準々決勝でほぼストレートに王手の手前まで追い詰めてしまったのね。

「あの茶髪の人、フユツキって人が強すぎるのよ……」

 これだけのチームが決勝の相手ってわかったら、そりゃ気も引けるわね。

 相手のスパイクからきれいなレシーブをあげ、味方のトスにあわせてスパイクを打ち込む茶髪の女の子。
 守りから攻めまでほとんど完璧ね。
 3Fが強いのは彼女がいるからだわ。
 彼女だけカヤの外にできれば勝機もあるんだけど、バレーじゃそれも難しいし……。

 困ったわね……。




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