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第11話  森の広場で    progress by AMI



 私たちはわけも分からないまま走りだした。別に死ぬわけじゃないからいいわよ。
 でも、攻撃されて体力が無くなったら未来のせいだからね。
 コンピュータプレイヤーはすぐに私たちに気が付き、私たちに向かってきた。
 やっぱり怖くなって、武器を構えようとしたそのときだった。

「白牙《波》(びゃくが・なみ)!」

 未来がそう叫んだ直後、背後が一瞬光ったかと思うと、
 次の瞬間には目の前のコンピュータプレイヤーたちが次々と倒れていった。
 私の目が正しければ、今私の正面、幅数メートルの範囲にはコンピュータプレイヤーは1人もいない。
 全員倒れてしまってアイテムやお金に変わっている。

 私たちはその光景に唖然としながらも、無意識に足を進めていた。
 すると後ろから武器を手にした未来が追い付いてきた。
「……何したの?」
 さっきの未来の言葉を考えれば、今の光は未来が起こしたのだということはほぼ間違いない。
 私は、私と由紀の間に入って並走する未来に問い掛けた。
「スキルだよ。前に教えたろ、ゲージを使う必殺技」
「今のが……?」
 確かに聞いた覚えがある。

 スキルゲージっていう体力やスタミナに次ぐ第三のゲージを使うことで、
 通常時よりも飛躍した攻撃能力を誇る特別な攻撃方法。
 私も由紀もまだ使えないから実際に見たことが無かったけど、スキルってあんなことも可能なわけ?

「ねェミッキー♪そのスキルってどうしたら覚えられるの?」
 目を輝かせ、声のトーンを上げながら訊く由紀。
「まぁ落ち着けよ。月の指導方針は聞いてる。月がまだ教えてないなら俺が教えちまうのはちょっとな」
「えぇ〜、いいじゃんケチぃ」
 月さんに合わせてスキルのことを教えようとしない未来。
「ほら、もう集会所が見えてきたぜ」
 由紀に腕をつかまれながら未来は正面を指差した。
 確かに指の指し示す先には月さんや隼人くんたちの姿が見える。
 走るのをやめた未来に合わせて私たちも走るのをやめる。
 足元に何も落ちてないところを見ると、どうやらここはコンピュータプレイヤーの守備範囲外みたいね。

 みんなが集まっていたその場所は、木製の小屋と円卓、
 その周囲にいくつかの切り株が並ぶ、森の広場だった。
 その場所だけ木々が生えていないため、太陽の光がスポットライトのように照らしている。
 心地よい風も吹き抜けて、まるで世界から切り離された別世界のような場所。
 マナってこんな場所まで用意してあるのね。

「2人ともちゃんと来たね」
「「はい」」
「よし、集会はじめるぞ。アミたちは適当に座っててくれ」
「うん」
 私たちは未来の指示にしたがって、近くの切り株に腰を下ろした。

 未来は小屋を背にして立ち、他のメンバーの方を見るようにして立ち止まった。
 未来の隣には月さんが、小屋の壁に寄り掛かるようにして並んでいる。
 2人はハチゼロのマスターとサブマスターだからかな。
 集会を取り仕切るのが2人の仕事なんだと思う。
 集まっているメンバーを確認した未来は、月さんと若干のやりとりをした後、
 集まったメンバーに向かって話しはじめた。

「えーっと、いきなりで何なんだけど、来週またユニバトをやることになっちまった」
 未来はなんか申し訳なさそうな顔をしている。
 ユニバトってたしかユニオン同士で競い合うイベントのことだったと思うけど。
「相手はどこなんスか?」
 黒に黄色のメッシュが入ったヘアカラーの人が未来に対戦相手を訊いている。
 あの人はたしか幽零さん、隼人くんとほとんど同期で仲がいい人だったと思う。
「それがな……残念なことに『ホワイトウィンドウ』なんだよ……」
「ホワイトウィンドウって、確かはなちんのとこだったっけ?」
「あぁ、あいつらのところだ」
 誰だろう、はなちんって。
「あそこはまだ出来上がったばかりじゃないスか」
「だからうちで腕試ししたいんだとさ」
「……なるほど」

 今隼人くんに聞いた話によると、はなちんっていうのは元ハチゼロメンバーのハナ蜂さんのことらしい。
 彼女と眼人っていう2人のメンバーが、私たちが参加する数日前にユニを新たに創るといって
 ハチゼロを離脱したらしい。
 離脱して創ったユニの名前がホワイトウィ ンドウ、今度の対戦相手になるってわけね。

「ええやん。うちにも新人が2人いることや し、腕試ししたいんはうちも同じやん」
「それもそうか。けどいけるのかよ?ユニは新し くても、向こうはフリーだった連中を集めたって話だ。今のアミたちじゃ歯がたたないん じゃないか?」
「うちの弟子たちをなめちゃあかんよ。あと1週間もあれば十分やね」
 なんか危険な言葉……。
 さっきの未来を見ていると、とても今の私たちが戦力になるとは思えない。
 これからの1週間、今まで以上に厳しい特訓させられそうね……。

「よし、ユニバトも控えてることだし、さっそくいつものいってみるか」
「「おー」」
 未来の呼び掛けに答えたのは隼人くんと幽さん。
 月さんとくろさんも立ち上がって武器の準備をはじめてる。
 いつものってなんなの?

 私と由紀がわけも分からずにいると、未来が装備を変更しながら歩み寄ってきた。
「これから対人戦の練習をするんだ」
「練習?」
「模擬戦ってやつだな。お前らはまだスタイルも決めてないんだろ?みんなの戦い方を見てれば参考になるぞ」
「スタイル?」
「細かい説明は他の連中に聞いてくれ」
 未来はそう言うと、突然姿を消した。どうやら忘れ物をしたらしく、町に戻ったようだ。

「んじゃ、くろと幽でいってみよか」
 何だか分からないけど、月さんはくろさんと幽さんを指名した。
「マジっすか!?ついてないなぁ……」
「お手やわらかに」
「……こちらこそ、よろしくっス」

 指名された2人は握手を交わして何もない草地に移動した。
 数メートルの距離をおいて向かい合うくろさんと幽さん。
 それぞれ武器を構えて向かい合う。どうやら2人で戦うみたいね。
 未来が言ってたのはみんなの戦い方を見て勉強しろってことかな。

「2人とも、準備はええ?」
「うん、いいよ」
「こっちもオッケーです」
「じゃあ始めてええよ」
 月さんの合図でくろさんと幽さんの戦いは幕を開けた。

 大きな剣を構える幽さんとは対称的に、細身の剣を構えるくろさん。
 先にしかけたのは幽さんの方だ。
 幽さんは大きく踏み込み力任せに剣を振るう。
 だけど、くろさんは一切無駄のないバックステップでそれをかわす。
 紙一重で当たらない大きな剣が何度も何度も空を切った。

「やっぱくろさんだなぁ。全然当たらないや」
 攻撃をことごとく外された幽さんは、くろさんから遠退き武器を下ろした。
 諦めちゃったのかしら。
「最近スタイルを変えたって言ってなかったっけ?」
「確認ですよ。以前のスタイルが通用しないことを確かめとかないと」
「なるほど。じゃあこれからが本番ってことだね」
「そういうことっス」




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