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第27話  同じ砂浜    progress by MIKI



 そしてそれぞれが思いを胸に秘めたまま、試合開始の時間が刻々と近づいてきた。
 すでに倉庫前の広場には今回参加するうちのメンバーが全員集まっている。

「アミちゃん、君のかたきは絶対とってあげるからね」
「あ、はい……」
 自分で仕返しをしようと考えている亜美は正直迷惑なんじゃないか?
 と、心の中でひそかに迅にツッコミを入れる俺。

 2日前はちゃんと断ったのに、なんで迅が参加するようなことを言ってるのかは聞かないでくれ。
 とにかくヤツはしつこいヤツなんだ。
 そして、急遽参加が決まったヤツがもう1人。

「ちゃんとアタシのかたきとってよね?」
「任せといて。うちのお姫さまがいじめられて黙ってるわけにはいかないよ」
 マスターであるがために参加できない、そのためはなは自分の代わりに眼を参加させてほしいと頼み込んできた。
 まぁ、それではなの気が晴れるならそのくらいは協力してやりたい。
 そう考えた俺は眼の臨時加入を認めたわけだ。

 こうして迅と眼、2つのユニのサブマスを加えた合同チームで今日のユニバトに挑むことになった。

 試合開始まであと10分弱、そろそろ移動しようかと思い始めた頃に連中は姿を現した。
 マスターらしき人物を先頭に、30人ほどの団体が俺たちの前で立ち止まった。
 マスターの顔には見覚えがあるし、名前は噂で聞いたことがある。
 バジリスクのファムっていったら、その行動だけじゃなく実力でも有名だ。

「仲間はそんだけか?」
「あぁ、お前ら程度が相手なら十分だろ」
 ファムに訊かれて意味も無く強がってみた。
 と言ってもこれでほぼ全員なんだけどな。
 しかも2人は別ユニだし。
「……9人か。ならこっちも9人で戦ってやろう。人数差で負けたなんて言われても困るからな」
 ファム、それは俺らをなめた発言だな。
「いいのか?負けたときに妙な言い訳するんじゃねェぞ」
「負けるかよ」
 タイマンでうちのメンバーに勝てる気でいやがるのか、甘いな。
 まぁ、その方が戦いやすいからいいけど。
「ただし、その3人は参加させろ。それ以外は何人いようが構わない」
 俺は亜美たちに手を出した3人に視線を向けながら言った。
 こいつらが参加しなきゃ今日の試合に意味は無い。
「あぁ、わかってる」

 俺とファムが小さな火花を散らす中、試合開始の時刻は刻々と近づいてくる。
 運営の人に移動を指示された俺たちは試合会場に移った。
 自分の体が軽くなるのを感じ、地面から足が離れる感覚を覚え、再び地面を感じるとそこはすでに試合会場だ。


 どこかで聞いたことのある音と潮のかおり、目を開いたときに目に入った景色は、
 あのルナサイドとまったく同じ浜辺だった。
 当然ここはいつもの世界とは違う空間で、この浜辺もあの場所とは別の場所だ。
 だがまぁ外観は因縁のあの場所、決着を付けるにはちょうどいいか。

 俺たちは今、海の家風につくられたキャンプにいる。
 試合前にキャンプですることと言ったら薬の買い出しと作戦会議だろう。
 キャンプに到着するなり薬を買い終えた俺たちは、
 パラソルの下に用意されたいくつもの円卓にバラバラに座り、作戦会議をはじめることにした。
 お題はズバリ、誰が誰と戦うかだ。
 めぼしい相手は例の3人とマスターのファムってところか。

「あの3人、確かソハ、ラミ、シノマだったよな?」
 俺は自信が無かったので疑問形で終えた。顔はしっかり覚えてるんだが名前は微妙だ。
「うん。ソハはあの中で一番偉そうな人ね。多分リーダー格よ」
「ラミは特徴のない存在感の薄いヤツだったよね」
 俺の問いにそれぞれ答える亜美と由紀。
 じゃあ、あのキャハハって笑う女がシノマか。

「あのさ、アタシがあの女と戦っていいかな?」
 そう言って由紀は名乗りを上げた。
「ユキはあいつにやられたのか?」
「まぁね。それにあいつ、なんか嫌いなんだよね。笑い方とか」
 なるほど、由紀の嫌いなタイプで、しかも一度負けてるわけか。
「ねェいいでしょ?絶対負けないから」
「もち。思う存分やり返してやれ」
「やった!」

 この戦いのメインは亜美やくろ、つまり実際にあいつらにやられたメンバーだ。
 はなは居ないから仕方ないが、他の3人の気が晴れるまで、戦いのサポートをするのが俺たちの役目だろう。

「アミとくろは戦いたい相手はいないのか?」
 戦いたい相手がいるのなら戦わせてやろうと思った俺は2人に訊いた。
「私はできればユキと組ませてもらえるかな?」
 そう言って由紀と顔を見合わせたのは亜美だ。
「別にいいけど、2人でシノマを相手にするのか?」
「ううん、ちゃんともう1人引き付けるわ。ただ2対2で戦わせてほしいのよ」
 そう言う亜美の顔は、ただ由紀と仲良く戦いたいって感じじゃない。
 シノマに借りがあるのか、1人で戦うのが不安なのかは分からないが、
 亜美がそうしたいって言うなら止める理由はない。

 特に亜美の場合は武器の性質上間合いを詰められると不利になる。
 その点をカバーするには由紀みたいな接近戦タイプと組むのが手っ取り早い。
 それに亜美たちならチームワークも抜群だ。よほどの敵じゃなければ勝機はあるだろう。
 俺はそう判断して口を開いた。

「俺たちは構わないぞ。やりたいようにやってみろ」
「ありがと、ミキ」
 素直にお礼は受け取るが、わざわざお礼を言われるほどのことでもないぞ、亜美。
 元々今日のユニバトは亜美たちのために用意したようなもんだからな。
 思う存分暴れてくれ。

「で、くろはどうなんだ?誰か戦いたい相手はいるか?」

 静かに荷物の整理をしているくろに俺は訊いた。
 荷物の整理って言っても荷物は全部頭のなか、普通ならはた目からは何をしているかなんて分からない。
 だが、さっきからちょくちょく円卓の上に所持品が並ぶのを見ると、
 おそらく荷物の整理をしているのだろうと推測できる。

「あのソハって人と戦わせてもらえるかな?」
「あぁ。それは構わないけど、お前荷物がやたらと多くないか?」
 荷物の整理で物が具現化するのは、荷物が多い証拠だ。
 くろの行動を見ていると、異様なまでに荷物を持ち込んでいるように見える。
「いろいろと準備がね。今日の試合は負けたくないから」
 そう返したくろの言葉には普段と違う力を感じた。
 普段荷物の少ないくろが戦いに向けて準備をしているのを見ても、おそらく勘違いじゃないだろう。
 くろは勝ち負けにこだわる性格じゃないんだけど、さすがのくろも闘争心を燃やしているようだ。

「んで?残りはどう分担するんよ?」
 くろの闘争心に軽く驚いて進行を止めていた俺に月の催促が入った。
「あとはラミとファムだな」

 ラミは目立った特徴のない、いたって普通の駄作キャラ。
 ファムは向こうのマスターだ。

「ファムはリーが相手したりよ」
「俺でいいのか?お前はどうすんだよ?」
 バジリスクで月とやりあえそうなのはマスターのファムぐらいだ。誰がサブマスなのかも分からないし。
 マスターの俺が言うのもなんだが、あいつの相手は月がすることになると思ってた。
「うちは3人が戦いたい相手と戦えるならそれでええよ」
「……じゃあ俺がやるか」
 ここは月の言葉に甘えさせてもらおう。
 俺も一応マスターだしな。久々にマスター対決させてもらうか。




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