←トップに戻る     ←第48話に戻る     第50話に進む→





第49話  謎球開幕    progress by MIKI



「オイッス、待たせたな」
 俺は軽く手を挙げながら赤井に近づいた。
 赤井はそんな俺に気づき、あからさまに嫌な顔をする。
「なんだ、来やがったのか。どうせなら欠場してくれりゃ助かったのによ」
「バカかてめえ。人数が足りなくなったら参加できねェだろ」
「参加しなくていいだろ。他の競技で頑張りゃ、こんなわけの分からない競技捨てたってつりがくる」
「……お前、さりげに頭良いな」
「なめんな」

 確かに赤井の言うとおりだ。
 なにも無理に謎めいた競技に参加しなくても、他の競技で優勝しまくれば十分総合優勝できる。
 つまりこんなヤツと嫌々チームを組む必要は無いわけだ。
 幸いうちのクラスは全競技でベスト4入りを果たしてる。
 俺と赤井でいろんなところに助っ人にいきゃあ……。

「そんなことさせないし」
「「……むっ?」」
 俺は突然背後から否定されて、少し頭にきながら振り返った。
 そこには小柄な20代女性が1人、ジャージに身を包んで立っていた。
 我らがクラス担任、沙耶っちだ。
「なんだよ沙耶っち。応援席は教室って書いてあっただろ。激励か?」
 応援席が教室ってのもわけが分からない話しだ。
「つうか、どのみちこのままじゃ欠場になるぞ。三人目は誰なんだよ」

 そう。
 赤井の言うように参加しようにも最大の問題が残ってる。
 この競技は三人で1チームの団体戦。
 三人目がいなきゃ結局は参加できねェ。

「その心配は無用。既に三人揃ってるわ」
「「……は?」」

 俺も赤井も、沙耶っちの言葉の意味が理解できず思わず聞き返した。
 どこを見渡したって、俺たちの近くにうちのクラスのヤツはいない。
 忍者やスパイじゃあるまいし、いったいどこにいるってんだ。

「どこにもうちのクラスのヤツなんていないぞ……?」
「おい……、もしかして……」
 赤井は何に気付いたのか、若干の焦りを見せた。
「そ。アタシが三人目。っていうかむしろ一人目?」

 あぁ、そうかい。
 赤井はこの状況に気付いたのか。
 こりゃ驚きだ。
 まさか高校生に交じって先生が競技に参加するとは……。
 しかも沙耶っちのあの言葉、最初から自分も参加する気だったってことだ。
 メンバーを勝手に選んだのもそのためか。

「っつうか先生って競技に参加して良いのかよ?」
「おぉ、そうだ。これは高校生の球技大会だぞ?無理があるだろ」
 赤井な言葉に気付かされた。
 普通に考えたら、球技大会を運営してる生徒会の承認がおりないはずだ。
 そう考えて、俺は近くにいた生徒会のメンバーに問いかけた。
 ……が、

「え?先生がメンバーに入っちゃってるの?誰?」
 そう言って生徒会の女の子はうちの出したエントリーシートを取り出した。
 俺は謎球にエントリーされている「サヤっち」な文字を指差した。
「あら、これ先生だったの?2Fのエントリーシート、みんなあだ名で書いてあるから気付かなかったわ」
 確かにそのとおりだ。
 生徒会がこのエントリーシートで先生に気付くはずが無い。
 つうかエントリーシートにあだ名って……。
 いや、書いたうちのクラスもあれだけど、これで承認した生徒会も問題だろ……。

「まぁ仕方ないわね。いいわよ、先生の参加を認めます」
 で、認めんのかよ。
 いいのか生徒会。お前らまでそんなだから、うちの学校は……。


「ま、そういうわけでアタシたち三人がうちのクラスの代表よ。アタシが参加するんだから、優勝以外は許さないからね」
 自分で勝手に参加しといて何を勝手な……。
 俺と赤井の仲の悪さはよく知ってるだろうに。
 今年に入ってからの俺たちの始末書はみんな沙耶っちが指導者だからな。

 ……まさか、あえて……?
 絶対優勝とか言いながら、実は俺たちを組ませて遊んでるのか……。
 だとしたらたち悪ィわ……。


「で、マサト?競技内容の発表はまだ?」
 既に集合時間はとうに過ぎた。
 そろそろ何らかの動きがあってもいい頃。
 そんなタイミングで沙耶っちは赤井に尋ねた。
「は?なんで俺に聞くんだよ」
「だってあんただけでしょ。集合時間にここにいたの」

 そういやそうだな。
 俺は1分くらい遅刻してきたから。

「なんであんたがそんなこと知ってんだ?」
「見てた。屋上で無銭飲食しながら」
「「あんた、先生失格だ……」」

 どこからツッコんでいいのやら……。
 集合時間になったのをわかってて、なお屋上から見下ろしてちゃダメだろ。
 少なくとも急いで移動しようって心意気が欲しい。
 んでもって無銭飲食はマズイっつうの……。


「謎球参加者の皆さん、これから競技内容を説明しま〜す。私に注目してくださ〜い」
 沙耶っちの行動に呆れていると、生徒会のたすきを掛けた女の子がマイクを使って注目を集めた。


−競技内容−
イ.1クラスの参加者は3名まで。内1名はターゲットの印、直径1メートルの盾を装備すること。
ロ.ターゲットは1つ、ディフェンダーは2つまでボールを所持できる。
ハ.各人、ボールを体に当てられたら失格。但し、ターゲットの盾によって防がれた場合、また、キャッチした場合は失格にはならない。
ニ.使用するボールは各人で調達。ボールは華草町の至るところに隠してある。
ホ.フィールドは華草町全域とする。
ヘ.ターゲットが失格になった時点でそのチームは失格。最後まで生き延びたチームを優勝とする。



「つまり、変則的なドッジボールってわけか」
 ボールは隠されてるものを探さなきゃならない。
 試合会場はこの町全域。
 隠れながら戦うのも戦略だな。
「そういうことだな。ターゲットとディフェンダーか……」
 とにかく優先すべきはターゲットの命だ。
 ターゲットは盾を持たなきゃならないから、運動能力にハンデができる。
 ディフェンダーは失格してでもターゲットを守る必要があるな。

 問題は誰がターゲットになるか……だな。

「はいは〜い。アタシがターゲットね」
 率先してターゲットに立候補したのは沙耶っちだ。
「……まぁ妥当か?」
「そうだな。俺が攻撃に回った方がいいだろ」
 ターゲットになっちまったら攻撃しづらくなるからな。

「お前だけで事足りるかよ。むしろ俺1人でディフェンダーやってやるから、お前はどっかに隠れてやがれ」
 はっ!言ってくれるじゃん、赤井さんよォ。
「お前なんかに任せられるか。足手まといだ。てめェが隠れてろ」
 近くにいられたらイライラして動きが鈍る。
 いるだけで足手まといだぜ。


「試合開始です!」
 俺と赤井が火花を散らすなか、生徒会の女の子によって試合の火蓋が切って落とされた。
「オッシャー!全員まとめてかかってこーい!」
 同時に学校を飛び出す大勢の参加者たち。
 それを先導するかのように、盾を片手に走りだす沙耶っち。
 あぁ、ターゲットが1人で戦場に出ちまった……。

「おいおい……。この大群の先頭じゃどこいったかわからねェぞ」
 弱気な発言をする赤井。
「こんな広い町ではぐれたら……厄介だな」
 とか言いつつ俺も弱気だ。

 ターゲット、沙耶っちに任せたのは失敗だったかな。
 今の行動を見るかぎり、多分、沙耶っちはこのチームで一番血の気が多い。
 ターゲットには向いてねェよ……。




←トップに戻る     ←第48話に戻る     第50話に進む→

inserted by FC2 system