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第51話  0対3は無謀じゃない    progress by MIKI

 
 
 くっそ、ボールが見当たらねェ……。
 町のそこらじゅうに隠してあるって言ってたのにな。
 これじゃ敵チームに出くわしても何も出来やしないじゃないか。
 生徒会の奴ら、いったいどこに隠しやがったんだ?
 まさか人ん家の敷地内に隠してるなんてことは無いよな……?
 
 俺は単独行動になってから10分近くボールを捜し回っていた。
 その間誰にも出くわさないし、肝心のボールも一向に見つかる気配は無かった。
 徐々に監視カメラの存在にも慣れ始め、今じゃ全く意識しなくなっている。
 時折聞こえてくるスピーカーからの中間報告が、虚しく町に響いていた。
 
 平日の昼過ぎだってのに、町中には誰一人一般人が見当たらない。
 主婦や小学生なんかはいてもよさそうなのに。
 まるで貸し切りの遊園地だぜ。
 その上、ボールも敵チームも見当たらない。
 俺はこの町の広さを再認識していた。
 
 小走りに町中を移動し、ちょうど十字路に差し掛かった頃。
 俺は走るのを止め、耳に神経を集中しながら十字路に近づいた。
 微かにだが人の話し声と足音が聞こえたからだ。
 俺は足音を立てないように、まるで泥棒やスパイのように抜き足で進み、民家の塀を背に覗き込むように十字路の先を確認した。
 
「………」(見つけた……)
 
 十字路を曲がった先には、男子三人組の二年生グループがいた。
 左右を警戒しながら徐々に前進してくる三人組。
 気付かれないように、俺はとっさに覗き込むのをやめた。
 
 少し落ち着いて考えてみよう。
 まだ焦る必要はない。
 はやる気もわかるがまずは落ち着け。
 
 見たかぎりじゃ、ディフェンダーの二人はしっかりボールを持っていた。
 対するこっちは俺一人、しかも手ぶらだ。
 俺から仕掛けることはできやしない。
 
 選択肢としては……
 
1.逃げる
2.隙をついてボールを奪う(横取り)
3.正面から対峙する
 
 まず1は無いな。
 今の俺の姿は監視カメラでクラスの連中に筒抜けだ。
 そんな状況で逃げたりなんかしたらなんて思われるか。
 
「妥当な判断だと思うよ」
 後の隼人談。
 
 それに、あいつらの警戒心の強さから考えて、2の奇襲作戦もうまくいかないだろう。
 多分走り込んだところを狙われてアウトだ。
 全員がボールを持っている状況じゃまず勝ち目はないな。
 
 そうなると正面に飛び出すしかないか。
 ボールをキャッチして反撃に出るのが一番妥当な作戦だろ。
 ボールは一個手に入れたら残りは避ければいい。
 まぁ余裕だな。
 
「無謀だよ。三人相手に一人で飛び出すなんて」
 隼人談。
 
 
 俺は意志をかため、タイミングを見計らって連中の前に飛び出した。
 
「神楽!?」
「おう、呼んでもらわなくても自分の名前くらい分かってるぞ」
 
 けど俺はお前らの名前は呼ばないぞ。
 なぜって、名前を出したらお前らメインキャラ化しちまうだろ。
 クラスメイトでもないキャラが増えたらめんどくさいからな。
 
 俺に気付いた三人は、ターゲットを後ろに配置したフォーメーションで身構えた。
 ディフェンダーの二人はボールを構え、ターゲットは盾を構えている。
 めっちゃ警戒されてんな。
 俺、ボール持ってないんだけど……。
 
 どうもそのことに気付いたらしい連中は、何やら作戦会議を始めた。
 こそこそと耳打ちを繰り返す三人。
 数回のやりとりで作戦が決まったのか、三人揃って俺の方に目を向けてきた。
 
「神楽、お前ボール持ってないんだな」
「おう。だから早く投げてくれ」
 それを奪わないことには俺の作戦は始まらないんだから。
「俺たち、お前は相手にしないことにしたわ」
 その言葉がショックだった。
「わざわざ危険をおかす利点は無いからな」
「ボールは自分で見つけてくれ」
 
 なるほどね。そういう作戦ですか。
 なら仕方ないな。
 連中に合わせるしかないべ。
 
「わーったよ。せいぜい生き延びろ。俺を今倒さなかったこと、後悔させてやるからよ」
 俺は睨み合う意味の無くなった連中から焦点を外し、振り返って別の道を歩きだした。
 
 だが数歩足を進めたところで足を止め、すかさず振り返った。
 その瞬間、俺に向かって飛んでくる三つのボールが目に入った。
 ラグビーボールにハンドボール、それにバレーボールと、ずいぶんバラエティに富んでやがる。
 俺は足元に飛んできたハンドボールを足で止め、ラグビーボールを手でつかみ、バレーボールを見送った。
 
「なんで気づいた!?」
 焦る三人。
 そりゃそうだ。
 手持ちのボールを全部手放しちまったんだからな。
「まさか、殺気を感じたなんて超人的な……」
「アホか。ボールをくれないっつうからわざと隙を見せたんだよ」
 したら案の定攻撃してきやがった。
 さすがに三つとも飛んできたのは予想外だったけどな。
 
「さぁて、反撃させてもらおうか」
 こんなに作戦通りにいったのは初めてだよ。
 バカだな、こいつら。
 
 全てのボールを手放しちまった連中に為す術はない。
 ターゲットは盾で必死に逃れようとしていたが、一球でけりはついた。
 
 さて、ボールも手に入ったし、参加者狩りでも始めようかね。
 
 
 
先生もやっぱり「F」の人    progress by HAYATO
 
 
「やっとボールが手に入ったみたいだね」
 未来のあの作戦が成功したのには驚いたけど。
「あいつは探し方が雑なのよ。何度見落とした?」
「確かにアレは酷かったねェ。カメラには何回も映ってたのに全然気付かないんだもん」
 未来の雑さにご立腹なのは亜美ちゃん、呆れてるのは由紀ちゃん他多数。
 
 それにしても、うちのクラスの参加者が全員同じ手段でボールを手に入れたのには驚いた。
 どうも全員同じタイプの人間らしいね。
 おおざっぱで細かい作戦が大嫌い。
 その上チームワークの相性が悪い組み合わせ。
 せめてもの救いは全員運動のセンスが人一倍高いことかな。
 
 見てるこっちは冷や汗ばかりかいてるよ。
 特に先生は隠れてればいいものを、ボール片手に率先して動き回る始末。
 未来や赤井くんより倒したチームが多いのは驚きだよ。
 新人だからうちのクラスの担任を任されたんだと思ってたけど、あの人も「F」みたいだね。
 
 しかも先生、ボールを投げつける瞬間以外はカメラに映らないんだ。
 有り得ないよ。
 地図上ではカメラに死角は無いのに……。




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